peicozy's blog

マラソン、トライアスロン、ブルベの完走記と、日々思うこと

宮古島トライアスロン完走記、自分が知らない限界へ

いつかは来ない、今しかない

2010年に珠洲トライアスロンで初めてミドルの距離(127km)を完走した後、勢いで2011年4月の宮古島トライアスロンにエントリーしました。高い倍率のなか運よく当選し、出場することができました。自分にとってはじめてのロングの大会です。総距離は200.195km。


いつかは完走したいと思って、モレスキンの手帳の見開きには「トライアスロンロング完走」と刻んでいました。手帳はかれこれ5冊になってしまいましたが、遠いと思った目標に到達することができました。


うまく言えないのだけど、人生というのは、いつか、誰か、のものではなくて、今、自分が歩んでいくものなんだと思いました。

支えと仲間

いろんな人の支えの中で参加できたのですが、特に妻には感謝しています。

  • 家族で買い物だというのに、自分だけランニングで行っても文句を言わなかった妻
  • 必要なんでしょ、ってWiggleに発注かけても理解してくれた妻
  • 汗臭いウェア大量のウェアを毎日洗ってくれた妻
  • もう、うるさいわね(笑)ってガーガー言うローラー台のわきで、テレビの音量を上げて見守ってくれた妻

ほんとうにありがとう。


町田トライアスロン連合の仲間、ツイッターのフォロワーさん、そして兄とレース楽しんできました。それでは、はじめてのロング第27回全日本宮古島トライアスロン大会を振り返ってみます。。。

夜明け前に

3時起床、ホテルのバイキングの朝食。炭水化物を多めに採とろうとは考えずにいつもの通り食事をした。4時40分の出発だ。エレベータでホテルのロビーに下りるとすでに大型バスが停まっていた。他のホテルを巡回してきたバスは、選手を満載している。選手は3つのトランジションバックを持っているので車内はなおさら混んでいる。通路中央の補助椅子を引き出して座る。これからはじまる長い1日を前にみんなの表情は緊張しているかと思いきや、ワクワクした笑顔ばかりだ。僕自身も含めて。


会場につき腕にマーキング、左肩だけだ。アンクルベルトももらう。バイクをセッティング。会場はまだ暗いのでもってきたヘッドランプが役に立つ。関東にくらべて日の出が1時間以上遅いのだ。4/24(日)東京の日の出4時58分に対して、宮古島の日の出は6時9分だ。


前日預託したバイクを確認する。朝露でシートがうっすらぬれている。タイヤの空気は抜けていない。スローパンクなくてよかった。持ってきたフロアポンプで空気を入れた。ヘッドランプでゲージを照らしながら。


ラソンレースとは違ってトイレの数が少ない。バイクラックのわきに仮設トイレが2つあったがすでに10人ほどの列ができていた。出すものは出しておこうと東急ホテル地下のトイレに並んだ。ここはトイレ前に係りの人が居て、女子トイレにも順番に使わせてくれていた。


芝生に戻りウェットに着替える。次第に明るくなってきた。ワセリンを塗り、日焼け止めを塗る。時計は最後まで悩んだが、GARMIN310XTを腕に巻いて行くことにした。予備のTIMEXはトランジット袋に戻した。310XTを腕にまいたまま泳いだことないけど、まあ実験みたいなものだ。フォロワーさんのアドバイスによればスイム中はGPS不要なのでバイクからGARMIN使えばよいとのことだったけど、レーストータルで使ってみたかったのだ。


To BIKE FINISH とTO RUN FINISHの2つのトランジションバッグをトラックに預けた。To SWIM FINISHのトランジションバッグは東急リゾートホテル前の芝生に並んだのラックにかける。すでに選手の白いバッグが鈴なりになっている。


「ちょっとゴミをすててくるわ」と一緒だった兄がホテル方面に戻っていった。時刻は6時35分。スタートまで30分を切った。ワクワクしてきた。帰ってくる兄を砂浜入り口で待つ。次々と砂浜へ吸い込まれていく選手たちを眺める。本当にたくさんの選手が居る。けど、兄がなかなか帰ってこない。時刻は6時45分。しびれを切らしてゲートをくぐり砂浜にでた。すでに兄は中に居て軽く試泳をすませていたようだ。あれ、どこですれ違っちゃったのだろ。


おなじくして、高浦さんに会った。バイクのボトルを忘れてホテルまで一旦帰ったそうだ。「もうドタバタだよ」って苦笑いしていた。


形だけ海に入り軽く泳いだ。ひんやりして気持ちいい。
さあ、いよいよスタートだ。

スイム

宮古島トライアスロンはウェーブスタート方式ではない。7時きっかりの号砲で1300人の選手が一斉に海に飛び込む。半時計周りでスイムを回る。海に向かって右側のコースロープに近いほうはエリート選手やスイムが速い人向けとなっている。左側はゆっくりスタートのエリアだ。


僕はエリートスタートのエリアの後ろに居た。速い選手が出たあとに、勝手にウェーブスタートするつもりだった。


スタートの号砲。


カウントダウンがあるのかと思ったら急にはじまった、砂浜から歩きながら入水する。兄と完走しようっと握手して分かれた。緊張感はない。


泳ぎ始めた。ゴーグル越しに見えた世界は透明だ。どこまでも見える海底。宮古島に出た人が皆言っていたのは本当だった。宮古島の海を泳いだらほか泳げないよって。


水面に目を戻すと、バタバタという人々の群れ。シロモトのウェットスーツの左わきをキープした。混みあっていてちょっと平泳ぎするのも邪魔になりそうで躊躇してしまう。


気持ちよくシロモトのウェットスーツ選手のわきについていたのだけど、狭い隙間をぐりぐり割り込んでくる選手に引き裂かれてしまった。またつぎの目標選手をみつけなければ。


途中GARMINが1kmのラップを知らせる振動を発した。まだ最初のブイ(たぶん600m)なのだけど。やっぱり水の中は誤作動するんだなってこのときは思った。


コースロープ沿いに泳ごうとするのだけどなかなか近づけない。しかたなく他の選手の流れに身をまかす。2つめのブイをまわってしばらく泳いだ。海底は砂に変わり水深も浅くなってきたのが見えた。

過信

あれ、もう終わりかな。結構オレ速いんじゃないか。って思った。なんだか十分泳いだって気がしてないのだけどもしかしてもうスイムアップか。確認しようとヘッドアップした。海面からチラッと前方を見た。はるか彼方に見える岸。スイムゴールはまだまだ先だった。自分を過信してゴメンナサイと誰に言うわけでもないけど心の中で謝った。


水深は再び深くなった。ただ黙々と無心で水をかきつづけた。
スイムコースは広いはずだけど、ところどころやっぱり込み合う。サケが川を上っているかのようだ。そんな狭い中でゴーグルの目の前を足の裏がかすめた。平泳ぎの人のキックだった。怖い。少しでも広いほうへ向かった。


先ほどとは違いあきらかに浅瀬になってきている。ただし浅瀬が長い。いよいよ足が着くかなって思ってもまだしばらく続く。結局ブイに表示してある距離は一度も確認できずにスイムを終えた。


あとで、GARMINの記録をみるとスイム中もGPSが捕捉できていたようだ。ただしスイムの距離は7kmだった。おそらく腕がぐるぐるまわっていたので、ほぼ倍の距離計測になったのだと思う。次回はスイムキャップの中に仕込んで出ようかな。

  • スイム 1時間10分32秒
  • (スイム順位1142位)

トランジション スイム〜バイク

砂浜に上がる。小走りする気にもなれない。どっとした全身の疲れ、息はあがっていないけど。とぼとぼとシャワーエリアに向かう。シャワーも混んでいる。スキマをみつけて冷たい水を浴びる。ちゃんと潮を流しておかないとバイクでヒリヒリになるよって言われたのを思い出す。水を浴びながら、あーしばらくこうしていたいと思う。


ウェットの上着を脱いでシャワーをあとにする。下はまだ履いたままだ。ウェットの下にトライウェア着ておけばトランジション速いだろうなって思う。さっきかけたばかりのトランジションバックを取りに行く。ラックにははポツンポツンと数えるほどしか残っていない。しかも、自分のかけた場所忘れているし。頭がまわっていないのがよくわかる。


着替えテントに入る。椅子かわりのビールケースを確保して座る。あーもう出発したくないかも。ちょっと休んでいこうぜっと体が言う。ウェットはぬぎずらい、力が入らない。はじめて着るバイクウェアのポケットにジェル6つ詰めて出発。ぬれた頭にメットをかぶる。


GARMINは7kmを差している。こんなに泳いでないよ俺はと思う。トランジションバックに脱いだウェットを詰め込みキュッと締める。テントを出た。「ありがとう、行ってきます」と言って係りの中学生に預けた。


イクラックに向かう、ポツンと残った赤いCAAD9。歩きながら押して乗車エリアへ、ホテル前を過ぎる。カーブでタイヤが捻じ曲がる感覚がして少しびびる。

バイク スタート〜池間

東急リゾートホテル前をかけおりる。昨日預託のときに通った道だ。角にあったメイストームサーベロのテントはない。左に折れてペダルを漕ぐ。


登り基調の道を過ぎる。朝のすこしひやっとした風が気持ちいい。もしかしてバイク中に体が冷えてしまうのではないかと一瞬考えた。沿道では楽器で演奏してくれる人、手をふってくれる子どもたち、畑の中を進んでいく。
Y字路を左に折れる。宿泊しているホテルサザンコーストの前を通りすぎる。ここでは下り基調なのでスピードが上がる場所だ。


DHポジションのまま漕ぎつづける。ホテル前を時速50km近く出して通りすぎてから思い出した。ホテルの隣の居酒屋のマスターが応援するから声かけてって言ってた。とてもそんな余裕なかった。


池間に向かう途中、バイク最初のエイドがあった。珠洲のエイドではバイクを完全停車して飲み食いしていたのとは違い、中学生が走りながらボトルやバナナを手渡ししてくれる。バイクで止まったら同じスピードにのせるのは時間とパワーを使うのでできるだけ止まらないで走らせるのがよいのだ。(だた珠洲は気温33度だったのでエイドで氷水かぶらないと熱射病で倒れる危険があった。)


結局最初のエイドはボトルも補給食も満載だったのでそのまま通りすぎた。体はスイムのだるさを抱え込んだままで、とても155km走れる気がしなかった。また、バイクパンツの下に履いていた普通のパンツが少しよれていて、このままサドルにまたがり続けたら擦れてしまうかも。そしてランはヒリヒリになった股をカバーしながら走るのかと思うとゾッとした。かといって停車してパンツの端のヨレを調整する踏ん切りはつかないままだった。


エイドをスルーした直後、たんまりアクエリアスを入れたボトルを落としてしまった。ゲージに戻し損ねたボトルは勢いよく後方にすっ飛んでいった。800円したキャノンデールのボトルはたった1時間の使用期間だった。きっと誰かが拾って使ってくれるだろう。。


池間大橋がなかなか見えてこない。昨日クルマで下見したときはすぐに見えていたのに。「ここから追い越し禁止」の看板のあと池間大橋になった。池間大橋上は池間島を一周して戻ってくるバイクが反対車線を使うので追い越し禁止なのだ。チームメイトやツイッターの仲間がいないか反対車線のバイクに目を凝らす。


まっすぐに伸びた池間大橋。DHポジションの選手たちが一列に並んで漕ぎ続けている。まるで何かに祈っているかのようだ。橋の左右は海。エメラルドグリーンの海だ。よく旅行のパンフレットにイメージ写真が載っているけど、今見ている景色は本物だ。まっすぐのびた橋、エメラルドに輝く海、頭上には青空、そして心地よい風。ああ、宮古島にきたんだ。深呼吸した。潮の香り。うれしくて涙がでそうだ。


池間島内は追い越し可能区間にもどる。昨日下見をしたばかり。ギリシャコーヒーを飲んだ店を通りすぎる。バイクでの下見ではなくクルマで下見しただけだけど知っているだけで漕ぎかたが変わってくるなぁと思った。特に下り坂の時に下見の差がでる。下ったあと登りがあるのか、カーブに備えるのか知っていれば下手にブレーキかけずに突っ込むことができるからだ。


池間大橋のたもと、ベルディのジャージ。たぶんだけど@ajaxbioさんだ。停車しているのをみかけた。携帯で写真でもとりそうな感じだった。


池間を過ぎて、島の東側を走る。途中佐藤さんをパスした。佐藤さんは63歳のベテランアスリートだ。後ろから近づいていくと、メットのわきから白髪がたなびいているのが見えた。ああ年配の方なんだなと思ったら佐藤さんだった。スイムが速いので自分より前にいる事はわかってたけど、40km地点で追い越してしまった。このペースでいったら完走は果たせないのではないかと思った。「チームの中で最初にゴールに居るのは(途中でタイムオーバーの)オレだからな、みんなの応援するから。」とレース前佐藤さんは言ってた。先に行ってまーすと言ってパスした。お兄ちゃんは先に行ったよ。って教えてくれた。


今回唯一下見をしなかったエリアを走る。さとうきび畑が広がる真ん中をつっきっていく。ときおり左手に海が見え隠れする。朝涼しく感じた風はいつのまにか時おりもわぁといった暑さにかわっていた。


ジェルを飲もうとふたを開けた。バイクジャージに納めたときはジェル状だったのに暑さですっかりさらさらの液体になってた。ふたを開けた瞬間、こぼれて右手がベトベトになってしまった。そのまましばらく指先をペロペロなめながらバイクを漕いだ。あいにくボトルは両方アクエリアスだ。これで流してもよけいペタペタになるだけだ。次のエイドで水を手に入れようと前を急いだ。


東平安名崎(ひがしへんなざき)手前、山本さんをパスした。女性の山本さんもベテランアスリート。コナにも行ったことがある大先輩だ。いってらっっしゃーいお兄ちゃんは先に行ったよ。と教えてくれた。まだ兄に追いつかない。飛ばしているのか。。。自分なりに頑張って漕いでいるのだけど、兄も必死で漕いでいるんだろう。


山本さんと別れて、東平安名崎の折り返しルートでとうとう兄を見かけることができた。すれ違いざま名前を叫ぶと一瞬はっとした表情になり手を上げて返してくれた。もう少しで追いつくぞと思って漕ぎ続ける。


東平安名崎の道路はざらついてた。灯台に向かって走る。ポタリングだったら灯台の先に自転車をとめて缶ビールでも飲みたいところだ。先端ではヘアピンのようなUターンをまわり崎をあとにする。

バイク 東平安名〜来間

東平安名崎をすぎ、本島にもどった。坂を上りきると来間島までの海岸線が一望できた。入り組んだ海岸が遠くまで見渡せる。やっぱりちょっとバイクをとめて記念写真の一枚でも撮りたくなる。下りきった先は右カーブになっていて見えないが、おととい下見で通ったおかげでDHポジションのままつっこんでいけた。やっぱり下見をしておいてよかった。


下りで選手を何人かパスした。下りになると漕がなくても進むので一休みできる。ぼくも以前は一休みしていた。けど、道は下ったら登る。できるだけ惰性をつけて次の登りを楽にしたほうがいい。だから下りでも目一杯漕ぐことにした。できるだけDHバーに顔を近づけて体を小さくして漕いだ。下りで2人抜き、続く登りで5人抜いた。やっぱり下り坂は休むとこじゃなくて稼ぐとこだと思った。


東平安名から宮古の南側を東に進む。途中で内陸に上がっていく。宮古島のバイクコースで最大の坂だ。陽は高くなってきて暑くなってきた。すっとギヤを軽くする。沿道にはスピードが落ちた選手のすぐわきで頑張れ、ワイドーの声援。


時速は10キロ台に落ち込む。辛くはないけど遅い。唯一比べることができる珠洲大谷峠を思い出す。あのときは歩くよりも遅かったっけ。それに比べたら速いかと思う。
もう少しで頂上だよっと沿道の応援が教えてくれる。しばらく街中を走った。


街路樹が両脇を挟むコースに出た。こんなとこ下見したっけ?覚えがない。目の前の選手をパスし、右カーブを曲がった。先に選手が見えない。ヤバイ、コースロストしちゃうかもって一瞬思った。(そんなわけないだろうに)前をいく選手がいなくなって焦った。きっと時間にして10秒程度だと思うけど、無意識で誰かのうしろを追っているんだなと思った。


来間大橋に向かう途中、メットにアヒルのおもちゃを付けている選手をみつけた。ツイッターで知り合った @kamui_sbrg さんだ。間違いない。思わずすれ違いざまに名前を叫んだ。一瞬の初対面。おうっ!といった感じで片手をあげ返事してくれた。


来間大橋も海を渡る橋だ。橋の上は追い越し禁止となっている。対抗車線も選手が通るためだ。前の選手に追いついたまま少しスローダウンして景色を眺める。上体を起こして深呼吸した。


来間島内は一周せず、道全体を使いながらゆっくりUターンする。もうすぐスイムアップの場所、バイクの2週目になる。ここまで兄に会えなかった。100kmを越える。練習も含めて未体験の距離に突入だ。残り50km以上あるけれど、それよりも半分以上レースが過ぎてしまったことを寂しく感じはじめてた。

バイク 来間〜池間(2周目)

来間島にかかる橋の中央。宮古島に向かって走っていると見覚えのあるうちわが目にとびこんできた。三澤さんの奥様が即席でつくってくれた、町トラの応援うちわだ。
通り過ぎながら気づいて「みさわさぁーん」と声をかけた。がんばってーと一瞬で後方に行ってしまった。いつ来るかわからないチームメンバーのために何時間も待っていてくれたことに感謝した。


今朝走ったばかりのコースを再び走る。少しつめたくて気持ちよかった空気はじわっとした暑さを含んでいた。思いのほかバイクを漕ぐ脚は軽い。ホテルサザンコースト前を通りすぎる、やはりスピードが速すぎて居酒屋の主人を見つけることはできなかった。


池間手前のエイド。「アクエリアスはありませーん」との声。コーラか水だな。と思ってコーラを飲んだ。ボトルをもらうたびに「ありがとう!」と声をかける。


池間大橋の復路入り口でトイレに入るつもりでいた。ここまで5時間近くトイレ休憩なしだ。停止さえしていない。やればできるもんだなぁと思った。それにしてもバナナを半切れづつ3,4回食べているのに大きいほうもしたいとは思わない。かといってすべてを吸収できるわけではない。どこかで大をしたくなるかもしれない。


池間島をまわりトイレに入る手前、どうみてもバイクシューズでない選手をみかけた。併走して声をかけた。(ランニンスシューズを指差して)「それってバイクシューズ?」と聞くと、違うとの返事。聞くと誰かがバイクシューズ入りの袋をもっていてしまったらしい。「めっちゃつらいっす」って言ってた。ガンバです!を声をかけてパスした。
レース直前のトラブルで心折れそうだなって思う。


予定どおり池間でトイレ休憩をすませコースに復帰、橋を渡り続く直線の向こうでようやく兄を捕らえた。東平安名で見かけた以来65kmぶりだ。追い抜き様に「なんでおまえが後ろから来る?!」みたいに言われた。


あとでわかったことだけど、平良港付近でトイレに入った兄。自分はその間に兄をパス、その少し先で岸人さんを(いつのまにか)パスしたようだ。トイレ休憩を終えた兄は、岸人さんをパスするとき「弟さんは先に行きましたよ」って聞いていた。池間を終えて前を行くはずの自分が兄の後ろから現れたので、なぜ???と思ったということだ。

詳しく説明する必要もないけど、こうなる

  1. 僕→友→兄
  2. 僕→(兄)→友 友がトイレの兄をパス
  3. (兄)→僕→友 僕がトイレの兄をパス
  4. 兄→友→僕 兄トイレ完了
  5. 友→兄→僕 兄は友をパス。僕は前に居ると聞かされる
  6. 友→兄→(僕) 僕はトイレへ
  7. 友→(僕)→兄 兄はトイレの僕をパス
  8. 友→兄→僕 僕は兄をパス


結局トイレ中のほんの2、3分で順位が相当変わってしまうとうことがよくわかった。しかもこの2,3分の距離を縮めるのも難しいことがわかった。結局は、いかに止まらないかということに尽きるかもしれないけど。


バイクも残り20kmを切った。バイクパートが終わってしまう寂しさが出てきた。脚はすこしだけマラソンに残しておくつもりだったけどそんなことはすっかり忘れて漕いでいた。きっと少しハイになっていて、痛くてもそのままくるくる回していた。


ゴール直前、来間ですれちがった @kamui_sbrg さんをパスした。「はじめましてツイッターの @peicozy です」とレース中にご挨拶。なんか新鮮だった。


いよいよバイクフィニッシュ。係りの中学生がてきぱきバイクラックの場所を教えてくれて、手荷物をわたしてくれる。着替えテントに入りいったん腰かける。テントの中は汗が充満していて長くいると気分が悪くなりそうだ。ジェルのフタやビニール袋とか散らばっている。テント内にゴミ箱が用意されているけど、そこまでそこまで歩く元気もない。これから42キロ走らなくちゃならないんだけど。近くに転がっていたビニール袋に身の回りのゴミを拾ってまとめておいた。さあいよいよランスタートだ。

  • バイク 5時間54分22秒
  • バイク順 799位
  • スプリット 7時間4分54秒
  • 順位 883位

ラン

テントを出ると日差しがまぶしかった。当然だ午後2時をまわっている。普通のマラソンレースだったら涼しい午前にスタートするのでとっくにゴールしているころだ。


ランスタート直後のエイドでバナナとコーラを流しこんだ。思ったほどお腹がすいていない。バイク中にパワー棒(パワーバーを半分に切って二つ折りにしただけ)を30分おきに食べてたからだと思う。


ランスタートはやっぱり変な感じ。脚が回らない。GARMINのキロラップは5分40秒くらいだ。時計を見ると思ったより走れている。バイクでは常に流れる景色だったのに、ランに入ってパタッと景色が止まって見えるからより遅く感じるのだろう。


ゆるやかな坂を下り大通りを左折する。旅が始まる感じがする。疲れているけど最終種目に移れたうれしさが勝る。沿道から頑張れー、ワイドーという声援。「ありがとうございます!、行ってきまーす!」と返事をする。ときおり子どもたちが並んでハイタッチを求める。小さな手ひとつひとつに触れながら、「ありがとうっ。行ってくるね」と返してたくさんの元気をもらう。ああなんて幸せなんだろう。


初めてハーフマラソンを出たときも、なんの徳にもならないのに沿道にたくさんの人が応援していてそれを見ただけでなんか涙でたのを思い出す。


パスされるよりもパスする選手のほうが多い。まわりの選手よりも自分のほうが少しだけ足取りが軽いのように感じる。ほんの少しだけど。


途中ふたたび @kamui_sbrg さんに会った。バイクで前に出たつもりだったけど、トランジションでパスされたようだ。「お先に行ってまーす」と声をかけて前に出た。しっかり日焼け止めをぬった顔はさっと笑顔に変わり「おうっ!」って応えてくれた。


キロ5分台で走り始めたけどGARMINのラップはいつのまにか6分台に落ちていった。4車線の大通りを走る。まだトップの選手は折り返してきていない。トップゴール前にランのスタートしたかったから、その目標はクリアだ。


日差しはあるが暑くてどうしようもない感じはない。ときおり吹く風が気持ちいい。色んな選手が居る。ジャージにつめこんだ補給食をゆらしながら走る人、腕とふくらはぎをしっかりサポーターでガードして走る人、両肩にエイドでもらったスポンジを挟んで走る人、ほんとさまざまだ。いろんな思いでただひたすらに往路を行く。


まっすぐな道、はるか向こうまで延々とランナーが続いているのが見える。道の先は登りになっていてその頂上付近にエイドがありそうだ。人がかたまって見えた。こういった、果てしない感じが好きだ。沿道の応援も途切れて静かな時間が時折おとずれる。自分の息遣いと足音に集中する。無になって走る。


私設エイドにお世話になった。どうぞどうぞと用意してくれた梅干がおいしい。ジューシーなすっぱさが体にしみる。公式エイドでも梅干をたべたのだけど、カリカリした梅なので実はたべずらかったのだ。水もいただいてふたたび走り出す「行ってきまーす」


対向車線にクルマが2台通りすぎた。レースの先導車だ。宮古島のランコースは完全な折り返しコース。折り返してくるトップの選手とすれ違う。すこしドキドキしてきた。


ほどなく、選手が現れた。タッタッタと力強い走り。「ワイドーワイドー」と声をかけた。その後もポツリ、ポツリとの選手が続く。集団になっているところはない。かっこいいなーと思いながら、選手ととおりすぎるたびに「ワイドーワイドー」と声をかけた。


途中、岩手県宮古の白いジャージを着ている選手とすれ違った。ブログで読んだ人だ。震災で被災した宮古市。出れない仲間のぶんを代表して行ってこいといわれた、と書いてあったのを思い出す。すれ違いに「ナイスランです!」っと言うと、笑顔とガッツポーズで返してくれた。じわっと涙がでてくる。ひとりで完走めざしてるわけじゃない。僕も完走して元気を与えられたらと思う。


復路を帰ってくる@jfz さん、@KougaNinja さんとすれ違う。ぼーぉーっと走っていたら向こうから声をかけてもらった、速いなぁ。自分も頑張ろうって思った。


また、ぼーっと走っていたら、横山さんに声をかけられた。速い!!!。ガンバでーす。って返して通り過ぎた。本当速い。昨晩あんなにビール飲んでたのに。。。アルコール関係ないのかな。


池田さんに追いついた。何キロ地点だろうか?脚が痛そうそうに見えた。「脚、大丈夫ですか?完走してビール飲みましょうね♪」と言って前にでた。「冷えたの買っておいたからねー。」と返事をもらった。元気そうだ。でも池田さん自身の自己ベスト(11時間40分)更新は難しいかもなぁと思った。


すとんと道が切れているように見えた。近づくと坂だった。それもかなりの急坂。登ってくる選手の中には歩いている人もいる。こんな坂を復路は登ってくるのかぁと思いながらどんどん下っていく。こ、こんなに下らなくていいと思いながらあっという間に下にきてしまった。その後もゆるやかな下りが続く。


エイドステーションで復路を折り返してきたエリックに会った。普段もでかいけど走っててもでかい。でかい人が居るなぁとおもって顔をのぞいたらエリックだった。「エリックっ!」って声をかけると片手を上げて合図をかえしてくれた。どこかで追いつきたいな。と思いながら気持ちだけは先を急いだ。


左手の塀に「も・う・す・ぐ・お・り・か・え・し」の看板が現れた。ようやく半分だ。だけどなかなか本当の折り返しにならない。ふぅ。


@40x19 さんに会った。すれ違いざま、おおっ!ってお互い表情が変わった。仲間に会えるのは嬉しい。@40x19 も初ロングだけど速いなぁ。さすが村岡山岳100キロマラソンで90kmまで到達した脚だと思う。後日投稿されたツイートによると、翌日の筋肉痛もなく、大阪に帰宅後は早速早朝ランや1500mスイムしていた。やっぱりすごい。自分ももっとトレーニングを日常に溶け込ませる必要があるなと思った。

ラン 折り返し〜35km

カラっとした日差し。ラン折り返しにたどりついた。


ALLSportsのカメラが見えた。いや、所属はわからないけどカメラが見えた。カメラ写りを意識してだれた走りを修正する。きっと見た目にはなにも変わらないだろうけど背筋を伸ばして走った。折り返しまでは歩かずに走ろうと決めてた。その目標はどうにか達成できた。


どこまで走れるだろうか。すでに歩くくらいのスピードにはなっているけど、一応走っている。どこまで走れるだろうか。あと10キロ弱は走れるかも。30キロ地点までは歩かずに行こうと決めた。


折り返してから、池田さん、兄、岸人さん、高浦さん、山本さん、三澤さんにすれ違った。それぞれガンバでーすって叫んでたと思う。ナイスランとか、いいペースだ!とか言ってもらって元気が出た。


エイドで佐藤さんに会った。実はバイクでレースを終えていたと勝手に思っていたので内心驚いた。佐藤さんは、「お前は復路だろ、俺はこれから行ってくるから」と言っていた。なんかカッコイイ。


GARMINがラップを知らせる。このころはキロ7分〜8分か。かなりへばっている。


前方にゼッケン1000番のおじさんを見つけた。「いいゼッケンですねぇ」と話しかけた。みんなに話しかけられるのでおちおち歩けんわ。あははって笑っていた。


脚はもう限界で、ゴールまで走ることは考えられなくなっていた。まずは次のエイドまでは歩かずに走る。ただそれだけが目標になっていた。エイドにたどり付いたら次の目標を考える。ただそれだけになっていた。


ようやく30キロになった。よし歩こうって思った。本当に止まるつもりで一歩、また一歩とペースダウンした。だけど、なぜか本当に歩くことはできなかった。最後の最後で何かにつき動かされるような感じがした。歩こうとした脚にグッと力が入って、再び走り出せた。ランニングの姿勢はとっているけど、歩くようなペース。それでも歩くことはなかった。


「ランはエイド以外では歩きませんでした」ってゴール後言えたらカッコいいなって思ってた。でもそんなことはどうでもよくなってたけど、やっぱり歩かずに居ることができた。


目の前に私設エイドが見える。その先は上り坂だ。あのエイドで水をもらおう。上り坂は歩いてもいいかも。さっきまで歩かないって決めた心は簡単に折れていた。私設エイドにたどり着いた。いただきまーすって水をもらった。応援の看板にふと目を移すと自分の名前があった。でかでかとゼッケン番号と名前が書いてあった。


思わず、「僕の名前があります!」って指差した。私設エイドの応援団と手を取り合って喜んだ。とても初対面とは思えないくらい盛り上がった。そして「どっちの!?」と聞き返してきた。兄の名前も書いてあるからだ。「497番。弟です。」って答えた。ついでに、「目をつむったらすぐ寝れますよ。ヘトヘトです。」と笑いあった。


ちゃんと見ると団体の、のぼりもあった。ぼーっとしてたので素通りするとこだった。疲れてくると極端に視野が狭くなるようだ。エイドのあとは上り坂だ。歩くつもりだったけど、応援団にトボトボ歩く姿をみられるわけにないかないなと思い直した。坂は走って上り切った。ほどなく公式エイドが見えた。よかったまた休める。


エイドに着いたのはいいけど、体はなにも受け付けない。食べたいもの、飲みたいものを体に聞いてみるけど答えがない。アクエリアスとコーラを一口ずつ口にした。エイドを出発する間際にエアーサロンパスをふくらはぎと太ももの裏側にスプレーしてもらった。もう、こことこことここがヤバイっすって指差して、女子中学生にスプレーしてもらった。スプレーしてくれた皆にありがとう!行ってきまーすってハイタッチして出発した。


出発して元気なのはエイド出て500メートルだけ、あとは葛藤が始まる、どこまで走れるだろうかと。沿道の声援にありがとうございますって答えるだけだったけど、せっかくだから何か面白い答えをしようと思った。面白い答えを考えていると、苦しいという感情は消えてきた。逆になんだか楽しくなった。明石家さんまが、面白いことを考えてること自体が面白いんやって言っていたことを思いだした。

  • 一日中走りまわったので宮古島の地図は完璧です。
  • (3人の子を連れた親子に)ぼくも3人子どもが居ます。
  • 今日一日で(日焼けして)すっかり夏男になりました。
  • 借りてきた脚がみたいです。前に進みません。
  • (エイド直前のトイレに入るとき)出してから入れます。
  • なんでエントリーしちゃったんだろっ思います。

書き出すとたいして面白くないな。それでも必死だった。

ラン 35km〜

35キロすぎのエイド。残り7キロ弱。一応歩かずに来た。水分を少しだけ取って出発。出発間際にちらっと後ろを振り向いた。あれ?あの白いウェア?。池田さんだった。往路で抜いたあと差がついていたと思ってたの。自分のがペースダウンしていた間コンスタントに走ってきたのだろう。それにしてもすごい。


エイド直後に三澤さんの奥様に会った。来間の橋で会った以来だ。「ありがとうございます。池田さんもすぐ来ますっ」て言った。ほどなく池田さんに抜かれた。時刻は18時15分過ぎ。池田さんが僕を追い抜きざま、言った。


「サブトゥエルブ達成しよう。間に合うよ。」


「自分はもう脚がだめです」


って言い返した。言い返しながら限時間内にゴールできればヨシと考えていた自分中の何かにスイッチが入った。前を行く池田さんを見ながら、20年以上もの先輩が「走る」って言っているのに、若造(といってももう39歳だけど)の俺が走らないわけにはいかないな。と思い直した。


限界ってなんなのだろう。ほとんどの場合は自分で自分の限界を作り出しているんじゃないかなって思った。30キロすぎたら歩こうととか、制限時間一杯使っていこうとか、自分の限界を自分で勝手に定義していて、それに従っているだけなんだ。本当はもっとやれるのに。沿道からの応援に応えようとして自分の限界がもっと先にあることに気がつく。他人から気づかされるんだ。自分では知らない自分のことを。


左の空から轟音が聞こえた。宮古島空港を飛び立った飛行機が白いお腹を見せながら飛び去っていく。手を振ってくれる沿道に応える、いつしかガッツポーズしながら、「帰ってきましたぁ!」ってでかい声で何度も叫んでいた。見知らぬおばちゃんと目が合った「おかえりーっ、よく帰ってきたね」とやさしく言ってくれた。なんだかじわぁっと涙がでてくる。


キロ6分台に持ち直した。競技場までの緩やかな坂を登って行く。道の反対側には踊りって応援してくれる3人の子どもたちがいた。踊りをまねして手をくるくる回してみた。どこからともなく元気がわいてくる。今度は左側にちいさな子どもたち3人がハイタッチで待っている。小さくやわらかい手に汗で塩まみれになった手でタッチする。ありがとう。


競技場間際、左足をひきずる選手をパスした。前の選手とは100メートル以上間がある。ゴールテープを頭上に掲げるのが夢だった。これなら誰にも迷惑をかけずにゆっくりゴールできる。トラックを回りながら何度もガッツポーズがでる。帰ってきたぁ。近づいてくるFINISHのゲート。


ゴールゲートだけがくっきりと見える。こみあげてくるものがある。ゴールテープを両手にもち頭上に掲げた。くぐりぬけたあと、振り返ってバイザーをとりコースに一礼した。


完走した。


長かった1日が一瞬の出来事のようだ。気持ちはさっきスタートしたばかりのままだ。そしてゴールした瞬間思った。また出たいな。

  • ラン 4時間49分07秒
  • ラン順 557位
  • 男子順位627位
  • 年齢別順位(35-39歳) 118位
  • 総合成績 11時間54分01秒(683位)

仲間を待つ

日が落ち始め次第に暗くなってくる。宮古そばをすすりながら、仲間を待つ。

次々と仲間がゴールしてくる。兄は、昨年より1時間以上タイムを縮めてゴールしてきた。これで新しいバイクを買えるゾと喜んでいた。奥さんと懸けていたらしい。


あとは佐藤さんだ。待っていてもあっという間に時間がすぎていく。iPhoneで速報タイムを確認した。35キロを19時30頃通過しているようだ間に合うか。ドキドキする。


タイムオーバー5分前。佐藤さんは競技場に帰ってきた。
「ラン折り返しで時計みたらさ、あと2時間15分しかないわけ。焦ったねぇ。」と言っていた。復路を走り通してきたんだ。スゴイ。


続けて佐藤さんが言う。
「おい、ビールもってこいっ」


どこまでもカッコイイぞ。

レースを終えて

歩こうとしたときに、何かに突き動かされる気がした。はじめてのミドルでは「生きている」ことを感じたけど、「生かされている」ことを感じたレースだった。


一週間後、日焼けした腕の皮膚がはがれ落ちてきた。レースをともにした細胞がひとつづつ入れ替わっていく。数ヶ月したら頭髪も含めてすべての細胞が入れ替わって、完走したという記憶だけが残るだろう。


おわり