peicozy's blog

マラソン、トライアスロン、ブルベの完走記と、日々思うこと

SDA王滝100km 完走記

王滝は3度目、コース短縮だったが2018年5月のSDA王滝で100kmを完走できた。
初めては1度しかないので、完走記を記す。

王滝歴

2017年5月 42km完走
2017年9月 100km 台風のため中止
2017年11月 100km 60km地点タイムオーバー雪周回コース
2018年5月 100km 完走

レース前

4時15分起床。
松原スポーツ公園、駐車場に停めた車の中で目覚める。
外はうっすらと明るい。
前回、11月の王滝はスタートになっても真っ暗だったけれど、5月の日の出は早い。


となりに停めたYも起きたようだ。峰々から覗く御嶽山にむけてスマートフォンを向け、写真を撮っている。


4時30分の整列開始にあわせてバイクを運ぶ。ジャージの上に薄手のダウンジェケットを羽織る。昨晩は3度まで下がった。標高900mの王滝村は、5月でも寒い。


今回、会社の同僚の、YとOが同じ100kmに参加する。Yは前回の11月に一緒に参加した。Oは2016年9月の大雨の王滝で完走しているヒルクライマーだ。


3人で、MTBを転がし、スタートに向かう。すでに、コース脇に、整列待ちのMTBが横たわっている。先頭から100mほどのところに整列できそうだ。


4時半、整列開始。ディレーラーを表にして横たえた。あとは、体の準備だけだ。

トイレ

4時40分から朝食。昨晩買ったおにぎりを頬張る。ぼーっと遠くに見える御嶽山を眺めながら頬張る。
5時15分、着替える前にトイレに行く。仮設トイレが沢山あるから余裕と思っていた。軽く50人は並んでいる。やばい。


もよおす前に並び始めておけばよかった。
もよおしてから並んだ自分が悪い。


永遠にこの列が終わらないんじゃないかと思う。
4つもある女子トイレに、駆け込もうと何度も思う。


残り10人を切って、限界かと思い、列を離れようとした時、前に並ぶ選手と目があう。


「女子トイレも使わせてくれたらいいのにね」


と、まったく同じことを考えていたのだ、少し彼と会話して、落ち着いた。まもなく自分の順番が来て、事なきを得た。


SDAは、セルフディスカバリーアドベンチャー


危うく、漏らしてしまうような自分を発見するところだった。


トイレで冒険する必要はない。

スタート

ウェアは、半袖ジャージ、腕カバー、ウィンドブレーカ。
パンツは、ロングタイツに、MTB用短パンを重ね着。
グローブは、指切りに、指ありを2中に重ねた。昨年5月のレース後、パッドが薄めの指ありグローブだけで臨んで、しばらく手のひらの痺れが取れなかった。クッションを厚くすればよいはずだ。


天候は晴れ予想。標高が上がっても、寒さを感じることはないだろう。


トイレ待ちで予想以上に時間使った。結局整列できたのは、スタート5分前だ。余裕をもって準備しているつもりでも、思わぬところで時間を使ってしまうものなのだ。


アナウンスを合図に、御嶽山方面に向かって、2礼2拍手1礼のお参りする。いよいよスタートだ。


プゥオーォォォンというラッパの音。
800人の選手が先頭から順に、放たれてゆく。


きっと、上空から見たら、歯磨きチューブの先から、歯磨き粉が勢いよく飛び出し続ける。そんな感じかもな。

舗装路

林道入り口までの区間は、舗装路だ。先頭部は、車が先導し隊列をコントロールしながら進む。


100kmのレースは制限時間10時間。
つまり平均時速10km/h が、完走するための最低ライン。
ガレ場の登りでは、10km/hを下回る。舗装路と下りで、どれだけスピードをあげられるかがポイントなのだ。


今回レースに臨むにあたり、4月から5月にかけて、ロードで150km以上のロングライドを数本してきた。


舗装路を漕ぎながら、昨年の初出場の時よりも、自分に余裕があるのが感じられる。そういえば、一年前の42kmの出場時、スタートエリアまで行くだけで、ハアハア息を切らしていた。それに比べると、漕げている。


集団走は接触が怖い。一番左端を、ぶつからないように漕ぐ。道は狭くなり、舗装路を終える。

林道入り口

800人が幅3メートルの林道に詰め込まれる。いったん解き放たれた小さな点が、細い管にぎゅうぎゅうと押し込まれて行く。


上り坂の途中で、あっという間に渋滞になった。しだいに選手同士の距離が近くなりすぎて漕げず、バイクを降りて押す。


後ろからは、「右通りまーす」と抜こうとする選手の声が響くが、坂が急で降りてるわけでなく、混んでて降りてるのだ。


こんな渋滞に巻き込まれないように、なるべく早い段階で林道に入るのもポイントなんだな。


乗車できるくらいに選手がばらけ、ようやく漕ぎ出す。それでも、前や横の選手と接触しそうな状態がしばらく続く。


誰もいない林道だったいいのにな。
でも、
誰もいない林道だったら、もっと遅いペースになってるかもな。
なんて思いながら漕いだ。


ウィンドブレーカーの内側に、うっすら汗をかいているのがわかる。

青空

標高があがる。いく層も重なる森の向こう側に、青空が広がる。絶好のMTB日和だな。MTBじゃなくても、外で過ごすのに最高の天気だ。


立ち止まって写真を撮りたくなる衝動にかられる。今日の作戦を思い出す。できるだけ進むこと。ただそれだけ。


今の実力で完走できるかどうか微妙なところ。
だったら、出来るだけ進んで、少しでも完走の確率を上げたい。
もし、完走できなくても、出し切った時にどこまでいけるのか試したい。そんな風に思いながら漕ぐ。


先は長い。

パンク

下り坂の先。左に白と青のウェア。Yだ。
タイヤチューブを取り出し、修理している。
パンクだ。


スピードにのったまま通り過ぎながら、


「マジか、先いってるぞー」


と追い越す。


王滝のコース上には、鋭く尖った石がゴロゴロしている。
河原のまあるい石とは違い、たった今、壁から割れ落ちてきました、といったような、エッジのある石が散らばっている。


登りで遅いときは、十分避ける時間があるし、踏んでもタイヤへのダメージは大きくない。


下りでスピードに乗ったまま、そんな石に当たると、パンクやバーストのリスクがある。


自分は運良く、これまで出たトライアスロンMTBも含めて、レース中のバイクでパンクしたことがない。


一応、2本のチューブとパッチとタイヤブートを携行している。パンク修理時間なんて、レース時間に見積もってない。


実力ギリギリの自分にとって、パンクしないことは完走するための大切なポイントなのだ。

登り

延々と続く登り。パンク修理を終えたYが抜いていく。Yは富士ヒルクライムレースを1時間17分で登る脚がある。


先にゴールでまっててくれと思いながら見送る。パンク修理してから何分経ったのだろう。


左に曲がるカーブで見えなくなった。

パンクその2

坂。下り切った先に小川のように水が横切っている。その隣に、白と青のジャージのY。


まさかの2度目のパンクだ。


「マジかよ、、、大丈夫か?」


思わず停車する。
下り坂でスピードが乗ったまま勢いよく水たまりにつっこんだら、水の中に石が隠れていた。


Y「チューブないかな?」


思い切りタイヤを打ち付けてパンクしららしい。リム打ちパンク。


Y「ほら」


取り出したチューブの穴を見る。蛇に噛まれたような小さな穴が2つ並んでいる。


「チューブあるけど、MTB用の太いのしかない」


Y「うーん、それじゃ無理だな」


Yのバイクは、28C。
クロスバイクのタイヤを履き替えてきただけなのだ。


「おおきめのパッチないかな」


どうやら、2本持ってきてたはずのチューブは1本しかなく、もしかしたら1回目のパンク修理の時に落としてきたかもとのこと。


「これあげるわ、」


と、パッチケースごと渡して先に行く。
直して追いついてきてほしい。


こんな短時間で再びパンクとは、、、。
まだ、第一チェックポイントも通過していないのに。


漕ぎ出したけれど、パンクのことが気になる。
下り坂のラインどりもスピードもより慎重にすすむ。


スタートしてからまだ3時間と少し。
先は長い。

CP1

第一チェックポイントは、34km地点 制限時間は4時間。午前10時までに通過する必要がある。


とにかくチェックポイントまで行こう。
ついたらそのあと考えよう。
レース全体というより、ひと漕ぎひと漕ぎに集中してた。


青空と御嶽山が林道の向こうにひろがり、空気感までは残せないとは思いながら、ふとたちどまり写真におさめる。
すーっとさわやかな風が、ウィンドブレーカーを通り抜けて気持ちいい。レースでなかったら、ここでこうしてしばらく山をながめていただろう。


今は、とにかく少しでも前に進むもう。平均時速10kmが最低ラインという思いが、あたまをぐるぐるとめぐる。


どこまでいけばチェックポイントなのだろう。腕のガーミンの距離と時間を確かめる。


下り坂の途中に案内板をみつける。


”もうすぐチェックポイント”


よかった。第一関門は突破できた。右手にテントが張られ、選手がMTBをよこにして休憩している。


補給食もハイドレーションもまだ十分余裕がある。非力な自分はできるだけ止まらずに先を行こう。停車せずに進んだ。


つぎの目標は第二チェックポイントだ。


ところで何キロ地点だったっけ、
トンネル抜けた向こう側だから78km地点だっけ、
そのあとすぐチェックポイントだっけ?


CPの距離と時間が頭に入っていない自分に気づく。
やばいな、とにかく平均時速10kmを下回ったらアウトだ。

林道

陽がのぼり、気温があがった。
ウィンドブレーカーを脱ぐだけで停車するのはもったいないので、しばらく着たまま漕いでいた。


補給のタイミングで、もぐもぐしながらウィンドブレーカーを脱いだ。汗でぐっしょりぬれたウェアを小さくまるめて、バッグに詰める。


特徴のない林道は、まるで無限のコースのように感じる。
さっき登った道を、再び登ってるんじゃないのか。


もしかして、エッシャーのだまし絵の世界みたいに、ここにいる選手は、ぐるぐるとコースを登り続けてるんじゃないか?


そんなことを想像してしまう。


そんな時は、フロントホイールの真下に目線を落とし、ひとつひとつの石をみつめる。わずかでも、グリップしそうなラインはどこか、ペダルからの力をに最大限使えてるか。
ミクロの世界の一部始終を見ようとする。そこには、やっぱり無限の広がりがあるのだ。一瞬を切り取って、分解してみたら、新しい発見があるのだ。

平坦路

45から50km区間で、ほぼ平坦な道が続く。
レースの中盤。なんだかほっとする時間だ。


ダブルトラックで走りやすく、尖った石もない。
木漏れ日のなかのサイクリングといった感じだ。

CP2:65km地点 制限時間7時間(13時)


CP2はどこだ。まだか。
CP1を過ぎてからしばらくして40km地点を示す案内をみて嬉しくなった。50km地点を示す案内をみて半分まで来たと思った。


60km地点をすぎた。背中のハイドレーションの水がなくなる。まずいな。乾いたら動けないぞ。


ハイドレーションには1.8Lの水に、粉飴をまぜて入れておいた。粉飴は、マルトデキストリンそのものだ。補給食のジェルの原材料で、うっすら甘みがあるだけ。


飲み始めに、ハイドレーションのホースに溶けきれない粉飴がどろりとつまり、まるでジェルを食べ続けてる感覚になった。


背負っているうちに、振動で溶けるだろうと思ってた。実際はボトルのような容器ならともかく、ホースの中の粉飴は溶けないのだ。


水、水、水と心で叫びながら進む。
運良く「天然エイド」の看板をみつける。


バイクを横たえ、勢いよく流れ落ちる滝のような小川に近づく。
ハイドレーションの口をあけ、水を流しこもうと一歩踏み出したら、天を仰ぐようにコケた。


思いのほか、脚に疲れが溜まっているのだ。一人でおかしくなって笑う。水は冷たく気持ちいい。一口飲むと、暑くなった体が冷やされる気がした。水を手に入れて安心する。


天然エイドをあとにし、数百メートル下るとそこは第二チェックポイントだった。


そうか、65km地点なんだ。
CP1は通り過ぎたけれど、CP2は停車する。紙コップに水をそそぎいれながら、この水は天然エイドのものなのだろうか、なんてどうでもいいことを考える。


トップチューブのバッグに溜まった補給食の包装を捨て、バッグから次の補給食を詰める。


テントに腕から血を流した選手がやってきた。スタッフから細菌が入る可能性があるからと促され、傷口を水洗いしはじめる。
痛そうだ。こけたら、タイヤだけでなく、体へのダメージが計り知れない。


コース上にはいろんなものが落ちてた。特に下りのところで、ボトルが何本か落ちてた。そのほかパンク修理のときのヘラとか、ジェルとか。


自分も何か落としてないか心配しながら漕いでた。サドルバッグはちぎれてないか。ライトは大丈夫か。


ここまで、Yに追いつかれていない。大丈夫だろうか。
そのあともパンクしてたりしないか。実力的にとっくに自分に追いつき、追い越している時間なのに。


CP2からCP3までは13km。
CP3のトンネルが徒歩で通過することになり、制限時間が伸びていた。


時刻は12時32分。
6時間半で、ちょうど65km。
完走ギリギリラインの平均時速10km/h ぴったりだ。
一応制限時間までは30分のアドバンテージがある。けど、なにがおきるかわからない、少しでも先に行こう。


つぎのCPまで行こう。着いたらその時考えよう。

王滝川沿いDH

予定していたコースが、レース前の大雨の影響でダメージを受け、コース変更になってる。


CP2からは下りが続き、王滝川沿いの舗装路に出た。
本来なら、林道をもう一山超えるところのはずだ。


王滝川沿いの道。陽に照らされた新緑があざやかにうかびあがる。見上げると青空。最高の自転車日和だ。


ダートのくだりにくらべて、舗装路がなんともなめらかなことか。
レースを忘れて、サイクリングの気分になる。


レースコースなので対向車が現れることに注意することもない。
今、ここでただ風を感じながらいればいい。

このレース中の最高時速を48km/hだ。
リミットの平均時速10km/hに対してだいぶ貯金ができた。

トンネル

コース変更に伴い、ライトの装備が必須になった。コース上で明かりのないトンネルを抜ける必要があるからだ。


トンネル前で停車し、ライトをつけ、徒歩で通過する。
どうやら、トンネル内で落車事故があり、骨折の怪我をおった選手がいたようだ。その後、降車して歩いて通過するよう変更になった。


トンネル内は安全のため両脇に、赤い点灯と、中心には簡易電灯がつけられていた。スタッフの方々、ありがとうございます。


このトンネルは、当時電車用のトンネルを道路用に変えたのだ。線路を埋めたような加工がそれなのだろうか。

CP3:78km地点 制限時間8時間(14時)


トンネルを抜け少し進むとCP3に着いた。
時刻は、13時15分。


ここまで来てようやく制限時間内に完走できそうな気がしてきた。
スタッフが、ここから13kmでゴールと話している。


ゴール前は下りが数キロ続くはずだ。
問題はその前に、どれくらい登るのか、、、、


スタッフは、けっこう登るよ。
と言う。
エレベーションを見ておくの忘れた。


とにかくいくしかないな。
エイドにある、パワーバーを一本まるごと食べ、エネルギーにする。


王滝沿いのDHで結構降りて来た、日差しと気温から推定すると、ほぼスタートと同じくらいの標高じゃないだろうか、、、

あのカーブを曲がったら

CP3からしばらくは舗装路だ。登りが続く。
おそらく、急な坂道は舗装路にしておくはずだ、と自分の中で独自理論ができあがる。


クルマのタイヤがすべらないように、急坂は舗装路とし、そこまで必要としない斜度ならば、未舗装のままなのだ。


だから、舗装路が現れたら、ギヤをローに入れ、黙々と漕ぐのだ。


舗装路が終わり、林道にはいっても、登り坂は続く。
つぎの坂が終われば、下りになるはず、と自分に言い聞かせる。
あのカーブの先は、下りになるはず、と自分に言い聞かせる。


なんだよ、終わらないじゃん。
わかりきってるのだけれど、また、同じように、希望を持って次に進む。


途中、何度か脚をつき、水を飲んだ。
じわりと汗が出る。


もう少し、もう少し。
時間内にゴールするんだ。

  • -


緑の葉のあいだから見える、空の青さの面積が増した。
なんとなく、青が多くなった。
なんとなく、空がみえてる気がする。

標高差400mを上がり視界が開けた。
1時間以上登り続け、ようやく下りになる。

フィニッシュ


林道を駆け下りる。


さっきまで、静止画だった両脇の木々のディティールは見えなくなり、解像度の荒いドットに置き換わる。
視界に飛び込んでくる景色が、次々と後ろにふきとんでいく。


2本の轍の左右をいったりきたりしながら、タイヤを転がす。
疲れているけれど、楽しい。


もっとこうしていたい、と思ってしまう。


舗装路に出て、一段とスピードを増し。
ほんの少しだけ登って降りた。


コースの先に、ゴールゲートが見える。


あと少し。
長かった旅も終わりだ。
ぐっとうれしさがこみ上げる。


右手を小さくあげて、ゴールゲートをくぐり抜けた。

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タイム:8時間47分35秒
距離:93.3㎞
平均速度:10.6km/h
獲得標高:2331m
(移動時間:8時間9分)

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ゴールエリアで一休みして、スタートの松原スポーツ公園に戻る。
途中、パンクしたタイヤのまま、よろよろと下る選手を見かける。

駐車場でOと再会した。7時間2分だった。
しばらくしてYが降りてきた、あのあともパンクが続き、のべ6回修理した。第2チェックポイントに数分間に合わずDNFだった。

次、出るときは、チューブ10本背負って出るわ、と笑っていた。

終わり