peicozy's blog

マラソン、トライアスロン、ブルベの完走記と、日々思うこと

2018 珠洲A-佐渡A トライアスロン完走記


佐渡トライアスロンに出て見みたい。ずっとそう思ってた。
佐渡は日本一長いトライアスロン大会だからだ。


かつて、最長は、北海道のオロロントライアスロンと聞いたことがある。総距離244km。スイム2kmバイク200kmラン42kmだ。そのオロロントライアスロンは2006年で終わり、現在は佐渡が国内最長になっている。


トライアスロンを始めて10年。佐渡出場に踏み切れない理由がある。
毎年、その直前に開催される、石川県、珠洲トライアスロンをホームレースとしているからだ。珠洲の2週後、近い時は1週後に佐渡の大会が開催されるのだ。


珠洲をやめて佐渡に出る?


それはない。


両方出る?


まず第一に、体力が持たない。


さらに、佐渡は毎年の定番レースと決めているトライアスリートも多い。よって、応募数も多数。何年も連続で出場しているベテラン選手でも、落選する場合がある。実際、自分の友人も、連続出場年数に関係なく落とされている。


さてどうしたものか。

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体力はさておき、出れる方法を考える。
どうやったら出れるのか。


娘は今年小学6年。佐渡珠洲もジュニアトライアスロンがあり、前日土曜日がレースとなっている。


これだ!!


こどものレースに同行する親が、ついでにレースに出るスタイル。実際は、親がレースに出がいがために、こどももレースをしているのだけど。


珠洲も、佐渡も、親子で申し込んだ。予想は当たり、両方とも選考の結果、出場できることになった。


喜びの反面、日程のキツさを目の当たりにした。2018年、珠洲は8/25(日)、佐渡は9/2(日)。月はまたがっているけれど、間は、一週間しかないのだ。



やばいな。



珠洲Aと佐渡Aの距離を再確認する。


珠洲A:スイム2.5km / バイク102km / ラン23km 計123km
佐渡A:スイム4.0km / バイク190km / ラン42km 計236km


それに、第4の種目ともいえる、車の運転がのべ、1800kmがあるのだ。


やばいな。



◾️8/24(金)東京-珠洲
午前6時、珠洲にむけて出発。自分のTTバイクと、娘のバイクと、自分と娘の選手2名、それと、妻をのせて出発。

珠洲はのべ6回目の出場だ。片道580kmの道のりも慣れたものだ。欲をいえば、流行りの、「自動運転技術」を搭載した車なら、長時間の運転もっと楽になるのだろうけど、欲を言ってはいられない。こうして、出場できるだけでも十分幸せなのだ。


関越ー上信越ー北陸へ走らせる。金曜の高速道路は空いていて、あっという間に金沢森本まで到着。のと里山海道で、能登半島の左側を北上する。雨上がりの日本海は荒れていた。砂浜に車を乗り入れられることで有名な千里浜ドライブウェイも閉鎖だ。海岸沿いのドライブはおあずけになった。


輪島市内に入る手前、総持寺に立ち寄る。総持寺は、毎年10月に行われる蛾山道(がざんどう)のトレイルランのスタート地点なのだ。いつか出て見たいと思っているトレランなので、立ち寄った。


その後、輪島市内から、千枚田に立ち寄り、珠洲に到着した。海は風があり、波がたっている。


◾️8/25(土)珠洲ジュニアトライアスロン
朝から風が強い。


10時に受付をすませ、11時からジュニアの選手説明会、12時から通常の選手説明会に参加。


選手説明会では、今年からスイムが2周回になったこと、監視域を小さくすることで十分なライフガードを配置できること、レースの実施を朝2度の委員会で最終決定することなど、安全を重視して大会運営する説明がなされた。


また、選手へのアンケートから、珠洲を楽しみにしている選手がとても多く、今年も継続して開催することが決まったとのことだった。


選手説明会で、声をかけられた。インド駐在時代の友人、N川さんだ。脚をいためていて、出場できるか危ぶまれてたけど、いっしょに出れそうだ。よかった。首回りも体格も、駐在時代よりひとまわり大きくなって、アスリート感が増していた。

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娘は4年生から珠洲に出場している。今年で3年連続3回目のジュニアトライアスロンだ。距離は、プールでスイム100メートル、バイク9.4キロメートル、ラン1.4kmで行われる。


娘は、トライアスロンは毎年この1回しか出ていないが、勝手がわかっているせいか、特に緊張する様子もなくスタートを待つ。


スイム:ほかの選手が皆クロールで行くところをかたくなに得意な平泳ぎでこなす。
バイク:ドリンクをもたずに9.4km漕ぐ。途中にエイドがあるが、片手で運転するスキルはなく、ひたすら漕ぐ。
ラン:ほんの少し歩きが入ったけど、がんばって走る。


ゴール後、完走メダルとともに、ふかふかのフィニッシャータオルをもらう。無事に完走できてほっとした様子だ。このレース、ひとつ下5年生の親戚の子もいっしゅに出場し、レース後はふたり仲良くすごしてた。

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さて、明日は自分の番だ。
どれだけ疲れずにゴールできるかポイントなのだ。


◾️8/26(日)珠洲トライアスロンAタイプ
5時過ぎに会場入り。大谷峠をこえた先は路面が濡れている。昨晩雨が降ったのだ。クルマを止め淡々と準備を進めると、近くの選手どうしの会話が聞こえた。


「スイム中止になったから、ウェットいらないって、、、」


そうか。昨日の説明会でも言ってたけど、海が荒れて、コースロープが張れない状態と言っていた。当日も波は穏やかにならず、スイム中止になったのだ。


来週の佐渡のスイムの最終調整にちょうどいいと思っていたに残念だけど、スイムも含めてレースをしたら、回復できないくらい疲れが溜まってしまうかもしれない。


自分にはちょうどよかったのだ。


N川さんと合流。一緒にバイクをラックにセットする。昨晩の雨でバイクのまわりは水たまりになってる。ぬれないように、ランシューズはバイクラックにぶら下げるように置いた。


受付で、腕と足に、ナンバリングしてもらう。今年は659番。あ、と思い、ゼッケンをくるくると回してみる。もしかしてこれって、点対称なゼッケンじゃないか、と、なんでもないところで嬉しくなる。


スタートの説明がアナウンスされている。スタートは7時半。スイムエリアから50名づつ、3分間隔でゼッケン順にスタートする。バイクの支度をして、メットやグローブをつけて、スイム会場の砂浜に集合、ただし、裸足で集合すること。


裸足、、、、


第1トランジットは、いかにはやく、靴・下・を・履・け・る・か、が勝負の分かれ目なのだ。そんなことを笑いながら考えながら、スタートを待つ。バイクラックには、ゼッケン順にバイクが並んでいるわけで、そこへめがけて、50人の選手がいっせいに、ひしめきあいながら、、、



靴・下・を・履・く



、、ってやっぱり面白いじゃん。

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190番のN川さんを見送り、8時過ぎ、いよいよ自分のスタートになる。もしスイムが通常どおり7時から実施されていたら、スタートから一時間後で、自分の泳力でのスイムアップ時間と同じ。朝の空気も、通常開催と同じ感覚でレースできそうだ。


レーススタート。裸足で砂浜を小走りで進む。バイクラックの水たまりのわきに腰をかけ、靴下を猛スピードでなく、いつもの感じで履き、シューズを履き出発する。


通常だったら、スイムでだるくなった体を、バイクに乗せて運ぶ感じだけど、きょうはフレッシュな体でバイクスタートだ。なんだか、サイクリングに出かけた気分。


スイムで濡れたウェアを、風が吹き抜けて涼しく感じる感覚もない。バイクスタート直後にあるエイドは、スイム後の補給に使う選手がいないので、ガラガラだ。エイドのボランティアがめいっぱい応援してくれる。ありがたい。

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今年の夏は暑かった。単に、暑いで済まされない暑さだった。平成最後の夏が、観測史上最高気温を更新する年になるなんて思わなかった。暑さを言い訳にしても、いまさらしようがないけど、バイク練習不足していて不安だけど、ここは経験でカバーすると言い聞かせて漕ぐ。


坂を下りながら、はじめて出場した2010年は、もっと急坂に感じてたんだなと、当時の感覚と、いまの感覚のズレをも楽しみながら漕ぐ。

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補給食は、ジェルを5本、脚攣り防止に、芍薬甘草等を持つ。なんだか、坂道がきつい。昨年より体重が2kgほど重くなってるからか、それとも、筋力不足だからか。


半島の北側はほぼ向かい風だった。スタートから約30km地点の馬緤(まつなぎ)のエイドでは、いったん停車し、ボトルに氷水を入れ直した。


ふと、2010年、初めて珠洲に出た時に、エイドで手伝いをしていた息子を思い出す。当時小学4年だった彼は、もう18歳だ。来年は珠洲トラに一緒に参加できる歳になった。時が過ぎるのは早い。

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馬緤のエイドから、ゴジラ岩を見た後、大谷峠への長い坂が始まる。くるくると一定のケイデンスで登っていた昨年に比べて、なんだか体が重い。ひとふみひとふみ、よいこらしょといった感じだ。


旧道に入り、斜度が増す。自宅近くの城山湖へ登る坂よりも、きつくない、きつくない、と自分い言い聞かせて登る。峠を越えたあと、安全のための降車区間を過ぎ、気持ちいいダウンヒルだ。DHバーを握り、姿勢を低くすると、どんどんスピードが上がっていく。


今年から、安全のため大谷峠も交通規制の対象区間になると言っていたっけ。一般車のが侵入できないように規制してくれているのだ。が、唯一前を行く大会運営用のクルマに追いついてしまった、左をあけてくれた。タンっともう踏みして抜いていく。


時速69km。キャノンデールスライス君。高速でも安定していて怖くない。出来るだけスピードを維持したまま、平坦区間につなげる。スイム会場が見えてきた、さあ2周目だ。


バイク1週目、1時間57分

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バイク2週目に入った。ちょうどBタイプのスタート時間帯に重なる。元気がよいBタイプの選手たちに次々に抜かれる。ペースを乱されることもなく、淡々と漕ぐ。それでいいのだ。今回のレースは、いかに疲れずに完走するか。そこがポイントなのだ。


疲れたとしても、6日間で回復する程度の疲れになるようにコントロールする。そんなコントロールはしたことがないけど。

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2週目に入って10キロ地点で後ろから声をかけられた。兄だ。今年もいっしょに珠洲トラに来た。兄はBタイプに出場。DHポジションのまま抜いていく。いってらっしゃい。自分はマイペースで行く。

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2週目のバイクは風が強くなってる。半島の北側を通るころ、完全に向かい風になってた。風を受けないように、なるべく低い姿勢を保つ。右のDHバーの先端がなんだかひらひらしている。見るとバーテープが剥がれはじめている。バーテープの内側は接着剤が、噛み終わったガムのように固まっている。


どこかでひっかけたっけ?


ひらひらと風にたなびくバーテープを、接着剤の残りカスで留め直そうとしたけどうまくいかない。今日はそのままでいい、それよりも、次週の佐渡までの間、バーテープを巻き直す時間があるか?ないな、どうしよ。とにかく今は、ひらひらさせたバーテープのまま進もう。

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大谷峠に向かう坂道。あきらかに1週目よりもスピードが遅いのがわかる。もっと、ガシガシ漕いでいた去年にくらべて、抜かれることが多い。ペースが落ちてきた選手が前にいても、いそいで抜くことはせず、マイペースで進む。旧道に入ってから斜度が増す。きっと、はじめて出場したであろうBタイプの選手が、斜行しながら登っている。あきらめて、自転車を降りて押している選手に声をかけた。


「あと少し、で頂上ですよ、ガンバって」


本当は、あと少しというには少しではなくて、まだ坂は続いていたけれど、なんとなく、そう言ってた。漕いで峠を越えたら、気持ちいいよって、教えたかったのかもしれない。

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峠を終え、ダウンヒルになる。なぜか、1週目と同様に、オフィシャルカーと同じタイミングになる。これまた1週目と同様に、坂の途中でクルマを抜きさる。違いは、剥がれたバーテープがひらひらしていることくらいだ。


平坦区間を終え、3つのアップダウンをこなす。右折して下ると、いよいよバイクフィニッシュだ。自分自身の疲労具合を測る。どうなんだろ、、、、わかんないな。


トランジションエリアでランシューズに履き替えていると、自転車を掛けようと、ラックうろうろ探してる若いゼッケンの選手にスタップが声をかけている。


「まず、落ち着いて、 ゆ っ く り 、自分の番号のラックを探してください。、、、ありましたね!!、次は、反対のことを言うようですが、 急 い で ださい、あなたのウェーブは、ランスタート関門まで、残り10分です。」


やばいな、俺も時間ないんじゃないのか!?

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ランシューズに履き替え、バイザーをかぶり、ランパートスタート。
暑くなってきた。2キロおきにあるエイドでは、毎回氷をもらい、トライウエアのポケットに押し込む。


足つりにはいっそう注意する。足をつってしまうと、しばらく痛みが引ない。場合によっては、来週の佐渡まで痛みが残ってしまうかもしれない。とにかく、つらないようにするのだ。エイド以外は止まらずに、13キロ地点まで走る。見附島(みつけじま)まで来た。



ゴールまで残り10km。制限時間内ゴールを確信して、歩き始める。兎に角、疲れを残さずに、ゴールするのだ。自分のレースは一週間後の佐渡を含めてレースなのだ。


終盤、つらそうに歩いている選手と話す。


「もう、さ、脚が鉛のように重いです」


という選手。あと少しです、がんばりましょう。と声を掛け合う。自分も歩いているけれど、そこまで脚は重くはない。疲れきらないくらいでレースする、自分をコントロールするというのがわずかながらできたのかもしれない。


残り2キロを切り、最後はしっかりランニングしてゴールを迎える。
球場に入り、青々とした外野の芝生を通り、最後は、ジャンプしながらフィニッシュした。


タイム7時間40分

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ゴール後、先に完走していた、N川さんと兄と合流。
思いのほか暑くて大変だったこと、バイクで頑張りすぎてランが走れなかったことなど話した。


自分としは、2種目になったが、どうにか珠洲は完走した、いよいよ、7日後は佐渡だ。どんなレースになるのだろう。。。。


まだまだ、レースははじまったばかりだ。


◾️8/27(月)珠洲-東京
朝から曇り空。バイクコース沿いにある親戚の家を出発し、珠洲製塩で塩アイスを食べる。行きにも立ち寄った千枚田をもう一度見て、輪島にある祖父母の墓参りをする。


毎年、珠洲トライアスロンに出場するということは、このお墓参りまいりも含めて自分の珠洲大会になっているのだ。今年も無事に完走できたことを報告できた。再び580kmのドライブをへて、深夜に東京に着く。


寝て、回復させねば。


◾️8/28(火)、8/29(水)仕事
昼休みに、机でつっぷして寝ていたら、上司が近くでチームメンバーに話しているのが聞こえてきた。


「Kさん、、、いつもは昼休みにランニングに出かけるのに、体調でも崩しているのかな、大丈夫かな、、」


(大丈夫です、少しでも寝て体力回復に努めているところです)


◾️8/30(木)仕事
仕事を早めに切り上げるつもりだけど、そう甘くはなかった。帰宅後、珠洲から持ち帰ったバッグに、洗い終えたトライウェアやキャップなどを再び詰める。明朝、起きたらすぐに出発できるよう、出かける服で寝てよいと、娘に伝えて寝る。明日は3時起床なのだ。


◾️8/31(金)東京-佐渡
午前3時出発。まずは、330km先の新潟港へ。娘は伝えたとおり、服のまま寝て、寝たまま助手席に乗り込んで、そのまま引き続き寝ている。


関越トンネルを抜けてしばらくすると、ポツポツと雨が降ってきた。
降ったり止んだりしながら、夜が明け、朝もやの向こう側に、山を背景に建物が浮いているように見える。まるで、海外旅行に来たかのようだ。新潟市街に近づくにつれ、雨脚はどんどん強まり、ワイパーを最高速で動かしてようやく前が見えるくらいになった。


フェリー出航できるのかな、、、


雷鳴も響いている。フェリー乗り場に着いたが、駐車しているクルマに人影はない。やっぱり、欠航なのかも、、、やばいな。ワイパー越しにもう一度、フェリー乗り場を確認する。


新日本海フェリー


間違えた。これじゃ北海道までいっちゃうわ。小樽まで行って、なんだか、海鮮丼とか食べて、ついでに、キャンプしちゃう感じじゃないか。カーナビで佐渡汽船の乗り場を探す。

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土砂降りの中、佐渡汽船のフェリーターミナルに到着。手続きをして、車を列に並べ待っていると、次々にバイクを積んだクルマが到着してきた。よかった。なんだかワクワクする。


雨の中、車内で乗船を待ちながら朝食を摂ることにする。ドーナツが入った袋が2つある。妻が、持たせてくれたのだ。と、思ってた。


長女からメッセージが入ってた。


”ドーナツのはいった袋、両方もってっちゃったでしょ、、、私が食べようとおもってたのにー、、”


長女と妻は、電車旅の最中。出発しようとしたら、ドーナツがなくてがっかりしたところだったようだ。娘から再びメッセージが入っている。


”しかたないなー、、食べていいよ”


サンクス。ありがたくいただくよ。

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9時20分、ほぼ定刻でフェリーは新潟港を出港。雨と風で、フェリーはゆっくりと揺れながら進む。船内は2等席のはじに寝っ転がり、100円で借りた毛布をかけて、少しうとうとする。まだ、珠洲の疲れは取りきれてない。少しでも寝ておこう。

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両津港に到着。佐渡島も雨だ。ナビをたよりに、長三郎の寿司屋に向かう。一つ前の便で到着している、トラ仲間と合流する。佐渡は、どこか田舎っぽくて、どこか珠洲に似ている感じがする。長三郎で、海鮮丼を食べる。トラ仲間の友人で、同じ宿の選手とも友達になる。

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宿で荷物を下ろしたあと、スイム会場へ。雨、風ともひどい、とても泳げる天候ではない。大会まで2日間で、波がおさまるのだろうか、それより、明日はジュニアトラだ。ジュニアは短いとはいえ、海でのスイムになる。これでは、ジュニアのスイムは中止、最悪は、ジュニアトラの大会そのものが中止になるんじゃないか。それだけ荒れた天気だった。

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選手説明会に、会場に向かう。各メーカーやショップのテントは、強風と横殴りの雨で、開店休業状態だった。商品の入っていたであろうダンボールも、雨にぬれてつぶれかけてた。風で飛ばされないよう、自立式テントの足も縮められてた。晴れていたら、たくさんの人で賑わっていただろうに。


受付で、リストバンドと、ゼッケンなどが入った袋をもらう。今年、佐渡トライアスロンは30回大会。過去の大会の様子を写真展示した、メモリアルコーナーも設けてある。記念すべきタイミングで、はじめての佐渡に参加できて、本当によかった。


ただし、、、


完 走 で き る かはわからないけど。

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説明会会場をあとにし、宿に戻ったあと、潟上(かたがみ)温泉へ。温泉近くの森で、優雅にはばたく、トキの姿をみることができた。風呂上がりには、佐渡牛乳を飲む。トキのデザインのパッケージで、かわいらしかった。宿に戻り、明日のジュニアトラの準備をして就寝。


◾️9/1(土)佐渡ジュニアトライアスロン
朝食後、娘と自分のバイクを積んで会場にむけて出発。雨は止み、曇り空だ。


佐和田の海水浴場の海沿いの駐車場に止め、受付会場の体育館へ向かう。昨日荒れまくってた海は、静かになっている。たった1日でこれほど変わるとは。これなら、今日のジュニアトラのスイムもできそうだ。そして、明日自分トラのスイムも、、、4km泳げるだろうか、、、、。


すでに、バイクラックには数台のバイクがとめてある。小学入学前の選手のバイクか、足で蹴って進む、ストライダーくらい小さななバイクがある。かわいらしい。


受付では、ゼッケンをもらい、ヘルメットのチェックをする。国際大会のように、選手のIDカードをもらい首からぶら下げる。IDカードには、名前とゼッケン番号が書かれ、大会スポンサーのロゴが並ぶ。なんだかかっこいいな。説明会は、体育館で、出場カテゴリごと、ゼッケン順に並ぶ。同伴してきた保護者は、選手の後方で説明を聞く。

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佐渡ジュニアトライアスロン大会は、入門、ちびっこ、キッズ、ジュニアの4つのカテゴリがある。娘が出るキッズは、小学4〜6年が対象。スイム100メートル、バイク2.5km、ラン1kmのトータル3.6kmのレースだ。


珠洲のジュニアは、プールで、1人づつ10秒おきにスタートしていたのとは違い、佐渡は同じカテゴリの選手が一斉スタートになる。キッズクラスは今年59名のエントリーだ。

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体育館からスイム会場に移動し、スタート前に開会セレモニーが行われる。トライアスロン協会会長の話のあと、ゲストのオリンピックスイマー松田 丈志選手が応援のメッセージを述べてくれた。明日Bタイプで選手としても出場するのだ。

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午前10時20分、キッズクラスがスタート。


娘はメガネっこなので、スイムスタート直前に、大会スタッフにメガネを預ける。スイムが終わって、バイクへのトランジション前に、受け取るのだ。メガネっこの選手はもう一人いた。


スイム:砂浜から一斉にスタートする。59名の選手がひしめく。コースは、沖に向かって50メートル先のブイをまわって折り返してくる100メートルのコース。一斉にスタートしたが、すぐに顔をあげる選手も多い。佐和田の海は遠浅で、子どもでも足が届く深さなのだ。安全面からもそのほうがいい。


娘は、後半1/3ほどの位置でスイムを終える。珠洲と同じで平泳ぎで通したようだ。50mのブイを回るとき、ぶつかりそうで怖いなと思って、立ち上がってみたら足がついて安心したと、レース後言っていた。


スイムからバイク、200メートルほど走る。スイムを終えた安心感んなのか、こちらにむかってニコニコしている。手を振りながら、メガネをかけていないことに気づく。


「あれ!!!?、、メガネは??」


「あっ!!!」


と驚いた表情に変わり、スイムアップ直後のスタッフのところへ逆走し。流れてくる他の選手をかき分け、ぶつかりながらさかのぼる、、「わすれちゃった」と、笑いながら、バイクラックへ向かっていく。

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バイクは、直線の1.25kmを行って、Uターンしてくるコース。珠洲は9kmのバイクがあり長いが、佐渡はめいっぱい漕ぐようなコース設定だ。Uターンでころびそうになっちゃったと話してくれた。


ランは、海岸の遊歩道をつかった折り返しコース。顔を赤らめ、息を切らして走る。最後は、明日のトライアスロンと同じフィニッシュゲートを通ってゴール。地元のローカル放送局、佐渡テレビのカメラが回り、明日の生放送の途中で録画放送がある。


ゴール後感想を聞くと、バイクも、ランも、ずーっとダッシュしている感じで疲れたー。と言っていた。2週連続完走おめでとう。

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レースが終わった直後、再び夕立のような雨が降ってきた。
なんだか不安定な天気だ。その後、潟上温泉で汗を流し、早めの夕食をいただく。明日は3時に朝食だ。寝よう。寝て体力を回復せねば。
自分は、珠洲から佐渡へ続く自分だけのレースの真っ只中にいるのだ。


◾️9/2(日)佐渡トライアスロンA
午前3時少し前。目覚ましが鳴る前に目が覚める。しっかり寝れたのかよくわからない。以前は睡眠薬のかわりになるといわれている、薬をのんだりしたことがあったけど、自然によく眠れる。


宿に泊まっているのは全員選手だ。食堂で静かに朝食を食べる。おにぎりとバナナと、お餅、オレンジジュース。特別なものを食べることはない。バナナとおにぎりは会場で食べることにし、持って行く。


佐渡のバイクは前日預託が義務ではない。昨日夕立のような雨が降ったのもあって、当日に持って行くことにした。午前3時20分。宿を出発。まだ濡れている路面を、車のヘッドライトが照らす。スタートまでには乾くだろう。


3時半を少し過ぎ、スイム会場の、佐和田の駐車場に停めた。駐車場はすでに選手の車で満車寸前で、あと1分遅れたら停められなかったかもしれない。少し早めにでてよかった。駐車場にはテントを張っている人もいる。レース前にテント泊は本当にすごいと思う。


バイクに空気を入れ、転がしながらトランジションエリアに向かう。まだ陽はのぼっていない。足元は見えない。昨晩仲間から、ライトを借りておいてよかった。トランジションエリアは、照明で照らされ明るい。


選手ひとりにひとつづつ、深めのプラスチックのカゴが用意され、そこにギアを入れる。黄色いかごは、農家で使っているもの、もしくは使っていたもので、普段は収穫された野菜や果物を入れているのだろう。


今日は、野菜の代わりに、バイクギア、ランギアを入れておく。


なにやら、向かいの選手が係員と相談している。カゴから多少はみ出してもよいだろうか?と、相談している。見ると、カゴのなかに、保冷バックをセットしている。なるほど、スイムからバイク、バイクからランのトランジションで、自前で冷たいものを準備しておこうという作戦なのだ。すごいな。いっそのこと、クーラーバッグを背負って走るのもいいかもしれない。できるだけ快適にレースを進めるために、知恵を絞るのも面白い。


朝の受付は4時半から、体育館で行われる。受付の10分ほど前に並び始める。後ろで聞き覚えのある声が聞こえた。A田さんだ。ここでもいっしょでしたか、、と笑う。今年、A田さんとは、スパトレイル、大磯RWSで会い、大会で会うのはこの佐渡で3度目なのだ。エントリーしている大会が似ていて、というか一緒で面白い。A田さんは意外なことに佐渡トラははじめてなのだそうだ、おたがい頑張りましょうと声をかける。


違う方から、佐渡珠洲のバイクについて語っている選手がいる。ほうほうと耳を傾けて聞く。


珠洲のアップダウンに比べたら、佐渡なんてずーっと平らだから、全然余裕ですよ、、、」


なるほどなるほど、珠洲よりもアップダウンがないんだな、これはいけるかも、とこの時は何も知らずにいた。

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受付開始、腕にゼッケンをマジックで書いてもらい、計測チップが入ったアンクルバンドをして、出口でアンクルバンドがセンサーに反応するかチェックして完了。


午前6時のスタートまで約一時間。ほとんど出るものはないが、一応トイレに行っておく。仮設トイレは選手が長い列を作っていたので、佐和田のライフガードの建物内のトイレに並ぶ。数は少ないけど、並ぶ人も少ないので早く順が回ってくるかもしれない。


トイレ待ちの間、たくさんのスタッフが通路を行き来する。一人のスタッフと目があった。転職っで新潟勤務になったM田さんだ。今回は、マーシャル。トランジションエリアの担当と、長い1日手伝ってくれる。ありがたい。会えないと思ったから余計にうれしい。


トイレ待ちの間、隣の部屋では、吹奏楽の楽器の最終調整も行われておこいる。大会は、ほんとうに沢山のボランティアで成り立っているのがわかる。ありがたい。


イクラックに戻り、引き続き準備していると、Yさんに声をかけてもらった。ネット上で、7年近く前から知り合いなのだけど、実際に会うのは始めてだ。なんだかとてもうれしい。


今年初めて袖をとおすウェットに身をを包み、スイムチェックに入るは。時刻は5時30を回ったところだ。砂浜の波打ちぎわに、小石があり、小石を踏んで沖に出ていく。ほんの少し痛い。足裏のツボ押し用のグッズを使って、踏んでいるかのようだ。


ウェットに海水を通し、スーツのカーブが体にそうように、微調整する。数メートル泳いで、遠くのブイを確認する。佐渡のスイムは、反時計回りに、海上の2つのブイを三角形にまわる。一周2kmを2周回だ。


おもったよりブイが近くみえる。これなら、泳げそうな気がする。5時45分、試泳時間後、全員が一度陸に戻る。あまり広くない砂浜に、選手がひしめきあって立つ。混み合った電車のようだが、みんなウキウキとした表情なのが、車内とは違う。毎日、毎朝、みんなウキウキして電車に乗ればいいのに。


地元佐渡テレビの実況アナウンサーの紹介のあといよいよスタート時間がせまる。この大会は、ライブ放送される。島内のテレビで、まる1日放送してくれているはずだ。ネットでも中継され、遠くの友人がぼくの勇姿をみれるというわけだ。勇姿でなく、ぼろぼろの中年のおっさんかもしれないけど。


午前6時、佐渡国トライアスロンAタイプスタート。右からドローン飛ぶ。泳ぎだす選手たちを写している。


選手の後方から、ゆっくり海に入る。遠浅の海で、しばらくは歩いて進む。頭にのせていたゴーグルは、少し汗で曇っている。海水になじませて掛け直す。


周りの選手が9割がた泳ぎ出した頃、ようやく水中に横になり泳ぎだす。目線が変わり、さっきまで真上に見えていた空は、息継ぎのたびに、見えたり見えなかったりする。おとといの荒れた海はどこへいったのだろう。本当に穏やかな海だ。まるでプールみたいだ。


周りに、選手がひしめきあってる。お盆休みに、遊園地の流れるプールの中で、無理やり泳いでいる。そんな感じがする。少し視界がひらけた思っても、何度も集団に飲み込まれる。手があたり、足がからみ、第一ブイまではひしめき合いながら進む。


第1ブイから第二ブイまでは、海岸と並行に進む。スタートから見ると、ほんの数メートルに見えた2つのブイは、海上で見るとずいぶん遠くに見える。とにかく、あの黄色いブイを逃さずに行くのだ。

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スイムはトラウマがある。2013年に初めての海外レース、ケアンズで、スイムに2時間13分もかかったのだ。当時の自分は、スイムは必ず周りに誰かが泳いでいるから、そうそうコースを間違えることもなくて、いつのまにか終わっているものさ。


そんな風に考えていた。


実際は、スタートして20分もたたずに一人になり、何度も何度もライフガードにコースを修正された。ろくにヘッドアップせず、目標を目でとらえずに泳いで蛇行した。あまりにも時間がかかり、潮の流れも変わり、ぎりぎりへとへとでスイムアップした。本当に、スイムでタイムオーバーになると思った。最後は、力なく、腕をくるくる回すだけで、どうにか、こうにかスイムを終えたのだ。

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そんなトラウマがあって、目標物を見失ったときのスイムが怖い。クロールのヘッドアップで見えづらいときは、躊躇なく平泳ぎに切り替える。目標に対し、蛇行せず、まっすぐ平泳ぎで進むほうが、蛇行してクロールで進むより、安全で確実だ。


平泳ぎにすると、まわりの選手接触する確率が増える。けど、人に気をつかえるほど余裕はない。


第二ブイを周り、スタートした海岸へ戻る。遠くから見えたブイとは違い、ビーチには水平にいくつもの建物が並んでいるので、実は目標を見失いやすい。選手もばらけてきたので、右手のコースロープぞいに進む。


岸まであと少し、思いのほか疲れていない気がする。陸にあがり、ひしゃくで水を一杯もらい、軽く飲んで2週目に入る。タイムは50分。このペースでもう一周したら1時間40分か、ほぼ想定どおりのペース。まわりは、Bタイプの選手が試泳しはじめたところだ。マイペースでい行こう。


2週目はぐっと選手が減り、広い海をのびのび泳ぐことができる。透明度はあまり高くない。目標のブイと、水中と、空とを見ながら進む。


なんだか気持ちいいな。2日前は、スイム苦手だからキャンセルになってもいいかも、なんて思っていた。けど、スイム出来てよかったな。トライアスロンしに来たんだし。


1つめのブイに着く頃、首の後ろがひりひりしてきた。ウェットのゴムが、くびに当たってヒリヒリするのだ。ウェットスーツの下に着ていたトライウェアの首を少し引っ張り出して緩衝材にしようとしたけど、あまり効き目がない。潮水がしみる。しかたがない。ワセリンも、くびのテーピングもしてこなかった自分の準備不足だ。けど、自然体で臨むっていうのも悪くない。


息継ぎの時はなるべく首だけでなく体全体をねじるようにして、ヒリヒリしないようにして泳ぐ。その場その場で、最適なやりかたを見つけるのも面白い。


2つ目のブイを目指して、平泳ぎをしてゆったり泳いでいると、ライフセーバーに声をかけられた。


「大丈夫ですかーーー?」


自分はいたって元気だ。右手でOKマークをつくりアピールする。苦しくて平泳ぎにしたと思ったのかな、景色をのんびりみたくて平泳ぎにしたんだけどな。


2つめのブイをまわり、あとは直線だ。遠くに見え隠れする白いテントを目指す。2週目も、右手にコースロープが見える範囲で淡々と泳ぐ。コースロープにくくりつけられた浮きが、いくつも通りすぎていく。昨年の珠洲のスイムは、潮が早すぎて、浮きがちっとも近づかなかったのに、次々と通り過ぎていく。進んでいる感じが心地いい。


今年最長のスイム。残り500メートルは切っただろうか。腕全体が重くなってきた。あと少しだ。


砂浜で応援している人々が大きく見えてくる。水は透明になり、海底の砂がよく見える、そろそろ歩ける深さと思い、体を起き上がらせてみたが、まだ深くて足が届かなかったった。ふたたび泳ぎ出す。陸に上がる少し前、日本選手権の選手に抜かれる。


スイム
1時間50分


2週目は1時間かかったということか。集団に混じって、もみくちゃの中泳いだ方が、速いんだろうな。


まばらに選手がスイムアップし、シャワーエリアで海水を落とす。手首にガーミンが付いたままだ、ウェットの袖が抜けないので、一度ガーミンをとり、口にくわえておく。スイム泳ぎきってよかった。次は楽しみにしていたバイク。バイクラック手前のエイドで、水とアクエリアスを飲む。


バイクはいつもどおり、ぽつんを残されている。足で踏みながらウェットをはがし、メット、グラブ、ゼッケンベルト、ゴーグルをして出発。背中には、ジェル6つ、バイクにもジェル6つ入っている。


ボトルは2本。両方粉雨飴だ。足つりしないように、芍薬甘草湯
の漢方のスティックを10本もつ。

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夏に、会社の先輩と仕事帰りに高尾山までランニングした。山頂にあるビアガーデンで美味しいビールを飲むためだ。ビールのため、摂る水分も最小限でいた。坂を登って行ったら両足がつった。一歩踏み出すにも、痛みがますばかりだった。数歩進むにも、驚くほど時間がかかった。


足がつったら、だめなんだな、、、、


足がつると回復までに時間がかかるし、痛みが怖くてパフォーマンスが落ちる。

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そんな出来事を思い出しながら、足がつらないことを優先するというマイルールで進む。

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バイクスタート。スタートゲートで、M田さんを再び見つける。マーシャルの仕事中のためか、おおきなリアクションはないが、あたたかく、にこやかに送り出してもれえた。いってきまーすと声をかける。


前方には4、5台のバイク。左手には、キラキラと陽を反射した、真野湾が見える。天気がよくなってよかった。これから佐渡島を一周する長い旅がはじまる。


沿道には、海岸沿いの階段に座りながら、過ぎ行く選手を応援する地元の方々。ほのぼとのした空気。なんだかサイクリング日和だ。


海岸から右に折れ、内陸を進む。今回、バイクコースの下見をまったくしなかった。聞いていたのは、Z坂と小木の坂の2箇所に大きな坂があるということだけ。


7年前、初めてミドルの大会に出場した珠洲の時も、バイクコースの下見はしなかった。珠洲は大谷峠という300mほどの峠がある。下見をしなかったおかげで、新鮮な気持ちでコースを楽しむことができた。実際は、歩くほどの速度で苦しみながら登り切ったのだけど。


なんていうか、自分は、事前にコースを知って戦略的にレースに臨むというよりは、次々と現れる未知の世界を楽しもうとする。そんなレースばかりだ。生き方も、そんな感じだなと、改めて思う。

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海岸を離れ、アップダウンが出てきた。そういえば、今朝の受付で並んでいる時に、後ろの選手が友人と会話してたのを思い出す。


珠洲のバイクに比べれば、佐渡はずーっと平坦だよ。ただ距離が長いだけ、珠洲がいけるなら、佐渡のバイクは余裕だよ、、、」


まるで、自分を安心させるかのような会話だった。そう、ぼくはその珠洲をほんの6日前に漕いできた。だから、たぶん、佐渡バイクも大丈夫なはず。この時はそう思ってた。

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20km地点、相川WSについた。まだバイクスタートして1時間も経っていない。2本のボトルに溶かした粉飴もまだ十分残っている。少し迷ったがコーラをもらうことにする。減速して、「コーーーク!」と叫びながら、ボランティアスタッフがめいいっぱい伸ばした腕の先から、コーラのボトルを受け取る。毎回思うけど、走っていくバイクの至近距離で、ボトルを渡すのは怖いだろうな。ほんとうにありがたい。


ボトルに入ったコーラを一気に飲んで、エイドステーションの終わりにあるボトルキャッチャーに投げ込む。ネットに刺さるボトルを見ながら、一瞬、ハンドボールの選手にでもなった気分になる。

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ここで、190kmを漕ぐ間の各エイドステーションを確認する。
ここで、とは言っても、レース前はまったく確認していない。レース後、完走記を書こうと思って、あらためて確認しているのだ。
さきほどの20km地点のエイドステーションが最初で、全部で11箇所のエイドステーションが設けられている、平均すれば、17kmに一度補給にありつけることになる。WSはウォーターステーション、ASはエイドステーションで、ASのほうが補給内容が豊富だ。


105kmから先は、Bタイプの選手も利用するエイドステーションになる。


20km、相川WS
43km、高千AS
56km、岩谷口WS --Z坂手前
72km、鷲崎AS
86km、浦川WS

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105km、住吉AS
123km、野浦AS
138km、多田WS
148km、赤泊AS
161km、小木AS --小木の坂手前
169km、羽茂AS

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内陸から再び海岸線に出る。ほんとにいい天気だ。サイクリング日和。前方に坂が見えてくる。跳坂。通称Z坂だ。


ギヤを落とし、坂に挑む。速度が落ち、心地いい風は消えた。上半身から汗が滲みでるのがわかる。体を冷やそうと、ボトルの水をかける。首が痛い。そうだった、スイムで擦り傷になってたの思い出す。


Z坂は一部工事中で、係員が交通整理をしている。確かにきつい。みるみる高度が上がり、さっきまですぐ左に見えていた海岸がはるか下にみえる。Z坂の終わり間際、半身をそって左手をみると、ゆるやかな弓状の湾がみえる。バイクを降りて、青空と海とバイクといっしょに写真を撮りたい気分にかられる。これが、サイクリングだったら、迷わず停まってるところだろう。ブルベだったら、通過チェックポイントになってるかもしれないな。


登り切ったつもりが、海岸が見えなくなっても、まだ坂は続いている。前を向いて、一漕ぎ一漕ぎいくしかない。素敵な景色のボーナスは終わりだ。


登り続ける坂なんてないのだ。ふと、坂は終わり、下りになる。道はひろくない。慎重に下る。大会中はクルマの利用を制限されているのだろう。突然対向車が来ることもない。こんな広い佐渡島を、楽しませてくれる大会に本当に感謝する。

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Z坂を過ぎしばらく漕ぐと、左手に大きな岩が見えてきた。大野亀だ。緑の絨毯のなかをくねるような登り坂を進む。大野亀の頂上付近をみると、ケルンのような小さなとんがりが見える。もしかして、登れるのだろうか。行って見たい。(翌日、クルマで確かめに行ったが、頂上に向かうトレイルは道が崩れていて通行止めだった)


自然が作り出した景色を楽しみながら進む。佐渡に来てよかった。これはレースではないのだ。長い長いサイクリングを楽しんでいる気分になる。ちょっと時間制限の厳しい、サイクリングなのだ。ブルベだとしても、PCとして使えるコンビニもない。島の自然と風を全身で感じる、素敵な時間なのだ。

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気温は25度もあるかないかだろうか。どこからともなく吹く風が、ひんやり気持ちよくて、まるで、クーラーの効いた部屋に横になっている気分になる。気持ちよすぎて、眠くなりそうだ。


同じような漁村が何度も現れて、もしかして、さっき応援してくれてた沿道のおばちゃんたちの前を、再び通っているかのような気分になる。本当に自分は前に進んでいるのか、知らないうちに、ぐるぐるとまわる無限ループの一部になっているのでないか、時折そんな気分にもなる。

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佐渡島は、濁点を反転させたような形をしている。上の部分を大佐渡、下の部分を小佐渡と呼ぶ。佐和田の浜から、大佐渡をめぐり、大佐渡は残り3分の1。コース上には、バイクコース100km地点、のような看板が立ててある。大会用に設置したのではなく、交通標識とならんで、常設してあるのだ。これなら、大会当日でなくても、楽しめるではないか。30年も続く伝統のトライアスロン大会なのだ。この記念すべき大会に出られてうれしくなる。

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バイクの車体から、シュッシュと異音がする。いつからだろう。キャノンデールスライスは、インド駐在が終わって真っ先に手に入れた、昨年は宮古島珠洲、今年は先週の珠洲で使っている。それ以前はロードバイクのCAAD9でレースに出ていた。レース中、パンクも含めてメカトラブルになったことはない。



今回も、レース前タイヤとチェーンを新調した。チェーンを張り替える時に、エンドの緩みに気づいて締め直した。緩んだままレースに出ていたら、どこかで折れたりしていたかもしれない、本当にツイていると思っていた、けど、とうとうメカトラブルか、、、。


バイクを停めて確認する。異音がする後輪をまわしてみるが、特に異常はない。点検している間に、数人の選手に抜かれる。


再び走り出す。がどうしても、シュッシュという異音が治らない。ブレーキが当たっているか、それともタイヤがゆがんでいる?


もう一度止めて確認する。勢いよく後輪を手で回すと、シュッっと音がした。やはり後輪だ。より注意深くみると、ホイールについているシールが一部めくれあがっている。


MAVICのホイールのCOSMICのシールが剥がれ、フレームに当たっているのだ。よかったメカトラブルではない。剥がれかけたシールをつけようとしたが粘着が落ちて張り付かない。シールで速く漕げるわけでもない、異音の原因のシールを剥がした。カッコいいCOSMICのMICの部分をはがし、COSの部分だけ残った。ぼくのホイールは、マイクを取って、コサインになった。数学科出身のぼくにぴったりだ。くだらないことで一人笑い、再びバイクをスタートさせる。


バイクから異音はない。よかった。捨てようとしたシールは、フレームにつけておいた。貧乏性だな。

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佐渡のバイクコースはいくつものトンネルがある。長いものでは1km近くある。短いものは50mほどだ。次のトンネル前にはスタッフが立っている。右カーブの先がすぐにトンネルだ。


「トンネル内、ウェット、悪路、暗いので注意!」


と端的にアドバイスを飛ばしてもらう。ありがたいな。
安全にレースをしてもらいたいという配慮を感じる。

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ここは何キロ地点のエイドだろうか、喉が渇いた。コーラと、ええっと、どうしよう、水も欲しい。ケージには2本のボトルがささったまま、よく考えずに新たに2本のボトルを受け取ってしまった。1本はDHバーの真ん中に挟み込み、もう一本は、、と考えているうちにハンドルが自然に切れていき、速度ゼロで転倒。


まずいな、頭が回っていないわ。
一旦完全停止し、コーラをぐびぐび飲む。水を飲み、体にかける。あいたたた、首がしみる。そうだった。


コーラのボトルはキャッチャーに戻す。水だけ持っていく。DHバーに挟んだボトルは、収まりがよいと思ったのは最初のみ、中の水が少なくなってくると、振動で跳ねて、飛びそうになる。


ボトルを捨てたいが、、その辺に転がすわけにはいかないし
次のエイドはいつだ?どこだ?なかなかエイドが現れない。


前に、小さくスタッフが見える。少し減速しながら、


「ボトルお願いしまーーーーす」


と転がすように渡す。すいません、頭まわってなくて。

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両津に戻ってきた。戻ってきてはいないが、金曜のフェリーで着いた港というだけで、妙に親近感がある。大佐渡の100kmは終わりだ。続いて小佐渡を巡る。


105km地点の住吉のエイドに着く。丁度、町トラの先輩、I口さんが応援にきてくれていた。なんだか嬉しくてニコニコしてしまう。


「F村さんは先にいったよ、あと、M橋さんと、O槻さんはまだ来てないな。」


そうなのか、みなさんを追いかけているつもりで漕いでた。後ろからおいかけてきてほしい。


「ここから先は、3つほど登りがあるから、がんばって」


アドバイスがありがたい。コースを知らずに臨んでみたものの、コースを知っているほうが気持ちの余裕が違うのがわかる。行ってきまーすと手を振りエイドを後にする。

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時刻は、午後1時を過ぎた。レース開始から7時間が経過。


疲れはあるが、どこも痛くはない。低出力で筋肉を動かし続ける能力は多少は備わったのかもしれないな。トライアスロンはじめて、10年になる。いつも順位は下から数えたほうが早いけれど、怪我なく過ごせてこれた。すばらしい景色や、風を感じてきた。いつも思うのだけど、特にロングのトライアスロンは、丸一日かけた長い旅のよう。ずっと変わり続ける目の前のスクリーンに自分が溶け込んでいる。そんな気分になる。


佐渡の右側を漕ぐ。佐渡一周を時計に例えるなら、3時から6時のあたりか。選手はまばらになり、前の選手が見えかくれする。風は追い風だ、気持ちいい。午前中にクーラーのように感じた風はもうない。


けど、左手の海岸線をずっと眺めながら、漕ぐ。もう、ずっとこうしているのかもしれない、いつから漕いでいるのだろう、この先もずっと漕いでいくのか。


ひとつまえのエイドでは、ボトルありません。と看板が立てられてたが、次のエイドは大丈夫だった。


Bタイプの選手も使うエイドでは、ボトルが一時的に足りなくなったのだろう。30回の記念大会用に新しくなったボトル。皆が、お土産として、持って漕いでいるのが目に浮かぶ。自分もそろろそ1本調達しておきたいな。


2013年、ケアンズでもらったボトルをキャッチャーにあづけ、佐渡のボトルをさす。ケアンズのボトルはもう5年も使ってたのか。インド駐在中も使ってたっけ。


それにしてもいい風だ。このままずっと追い風でいてほしい。自分をバイクフィニッシュまで運んでくれ。

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161km地点、小木のエイドに着く。残り30kmを切った。追い風も手伝って、ここまでバイク6時間40分。スイムと合計で8時間30分、時刻は午後2時30分ということになる。一つ坂があるらしいけど、あと1時間くらいでバイクを終えられないかな。安全のため、ランに6時間とっておきたい。


制限時間は15時間半。午後3時半にランスタートできればいい計算だ。遅くとも4時にはスタートすれば5時間半でラン。


スタート時点では、佐渡一周バイクで走れれば満足だなと思ってたのに、あわよくば完走したいという気持ちが大きくなってきた。先週の珠洲を終えた時点では、ちょっと今の体力じゃ無理かなと思ってたけど、今日の佐渡は、灼熱にならず、絶好の天候なのだ、この機会を逃したら、、、珠洲-佐渡完走はないかもしれない。


小木のエイドはなんだか賑わってた。賑わってた理由を知らずにいた。


ボトルに水を蓄えエイドを出る。右折した直後に登り坂が始まる。


これが、小木の坂か、、、、


ギヤを落として漕いでいく、つりそうな脚には、漢方を飲み込みやり過ごす。Z坂と同じくらいの坂なら、なんとかなるだろう、、軽い気持ちでいた。


坂の途中沿道で応援している人に声をかける、自分としては、7割くらい登った感覚。


「この先どれくらい続きますかね?」


「まだまだ、まだまだですよ、がんばってー」


あれ、そうなんだ、けっこう登ったのだけどな。確かに、前には坂が続いてる。上は切れてるようにみえるから、そこが頂上にみえるけど、まだあるんだ、、、今度は、隣で漕ぐ選手にきいてみる


「きついですね、あとどれ(登るか)くらいか知ってますか?」


「もう少しで、終わりますよ、ただ、1発じゃ終わらないんですよね、いくつかあったはず、自分も忘れましたがね、」


まじか、、、



疲れた脚にボディーブローのように効いてくる。まあ、ボディーブローを実際に受けたこともないのだが。とにかくじわじわ削られて行く感じがわかる。さっきの小木のエイドが賑わっていたのは、小木の坂を登る前に、十分補給しようとしている選手がたくさんいたのだ。



選手の言ったとおり、終わりにみせかけて、まだ坂が続く。少し下っても、また坂が現れる。もう、疲れたよ。あわよくばここから1時間でバイクフィニッシュなんてとても無理だ。時速一桁台になってる。まずいな。


さきほど十分な補給をしてきた選手らに抜かれて行く。つらないぎりぎりで一漕ぎ一漕ぎしていくしかない。他の選手はどうでもいい、自分自身のコントロールに集中する。自分を操作するのだ。言うことを聞かないかもしれないけど。


なんども騙された小木の坂が終わる。あきらかに下りだ、よかった、下りおえたら平坦だろう。高速で下り下りたあと、ふたたびじわじわとした登りが現れる。


まだあるのか、、、


すいすいと女性が登っていく。強いな。ようやく最後の登りを終えたあと、向かい風になった。ふと、先輩の言葉を思い出す。


「、、、、小木の坂を終えてさ、左手に真野湾がみえるわけ、スイム会場がはるかかなたにあるのだけど、そこからずっと向かい風なんだよ。毎年、毎回。残り10kmDHバーにしがみついて、耐えるしかないんだよね、、、、」


確かに、、、


言った通りだ。
向かい風でスピードはまるででない。
疲れ切った、いうことを聞かない脚でいくしかない。


本当に、ランスタートできるだろうか。
長いよ、バイク。

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しがみつきながら、どうにか市街地まで戻る。
クルマの数が増えた。


二股に分かれるY字の交差点を左に進むと、こんどは、ランナーが見えてきた。バイクコースと一部重なっているのだ。バイクフィニッシュはもう少しか。


向かってくるたくさんのランナーを見ながら、さらに進む。


ってことは、この道をまたずっと走るってこと?次は自分の脚で。
もう、いいから、早くバイクを終えたい。


むこうから走ってくる選手に見覚えがある。Nさんだ。
8年前の珠洲で友達になった。トライアスロンスクールに入り、力をつけた。なんだかうれしくて、Nさーんと声かけると、気づいて手をふってくれる。


商店街を抜け、左折するとようやく見覚えがあるトランジションエリアが見えてきた。長かった。ランに残された時間が気になる。


時刻は4時を少し回ったところか。残された時間は5時間半を切ってる。まずいな。けど、念願だった佐渡バイク190kmをこなしたぞ。



バイクタイム 8時間16分
経過時間 10時間8分、制限時間まで残り5時間22分。

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トランジションエリア。わがやに久々に戻ってきた感じ。バイクをラックに掛け、腰を下ろす。隣もランの準備をしている選手がいる。


お互い顔をみあわせ。いやー長かったですね。と笑う。


ここでのんびりしている時間は無い。バイザーをかぶり、ソックスを履き替え、ランシューズの紐を結ぶ。足つり防止の漢方を背中とパンツのポケットに突っ込む。


ラン頑張りましょう、と、まだ準備している隣の選手に声をかけ出発。スタートのエイドで水を飲む。これから夕方を迎えようとする街。夏の終わりと、秋のはじまりの、どちらにも属さない感じの今日の空気。


ランは21kmの周回コースを2周する。1週目と各エイドに関門時間が設けられている。1週目は19:30までに終えないと、2週目に進むことはできない。


仮に、19:30ギリギリに2週目をスタートできたとしても、21kmを2時間で帰ってこなくてはなならい。単なるハーフマラソンの大会なら余裕をもってゴールできるだろうが、疲れ切った脚のことを考えると、19時には2週目に入りたい。


もし、両足つったりしたら、とぼとぼと歩いて、関門にひっかかって終わるだろう。兎に角、アクシデント無く脚を動かし続けるのだ。

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ランスタート直後のエイドで水を飲む。空腹感はないので食べ物はいらない。海岸沿いを少し走ったあと右に折れ、商店街を抜けていく。


折り返しの選手が、道の反対側を走っている。1周目と2周目識別するものはないので、どの選手がゴール間際なのかよくわからない。


すれ違う選手の姿を目で追う、I井ちゃんと、A野さんを見つけ、声を掛け合う。


商店街のあと、住宅街を抜け、左に折れて何度か曲がると、田んぼが広がる、のどかな景色に変わる。


道の両側は遮るものがなくなった。走りながら、首を左に向けると、遠くまで続く田んぼと、その奥に山が見える。今どの方角に走っているのだろう、今見ている景色は、小佐渡か、大佐渡か。


少し目が霞む。歳のせいか、今年に入ってから眼のピントがあわせづらくなってきた。前を走る選手を見るより、遠くの景色をみているほうが楽だ。


前の選手の走り方が普通と違う。近づいてわかった。義足なのだ。Bタイプの義足の選手は、ゴールを目指して進んでいる。すごい。追い越しぎわ、小さく手をグーにして、ナイスランです、と言いながら、自分がエネルギーをもらっている気がした。すごい。


田んぼの真ん中を突っ切る道の両側には、足元を照らすように灯篭が設置されている。これから暗くなってくると、点灯するのだろう。


橋をわたり、若干の下り坂、そのあと登り坂になる。
微妙な登りがきつい。でも、7時までに1周目を終えるのだ、脚は止めない。ペースは、キロ6分半、エイドに寄った区間は7分半で進む。


10km地点まで登り、ゆるやかな下り、左に折れる。折り返し部分は、ループ上になっていて、戻ってくる選手とすれ違うことはない。


ここまで下ってきた道を登るのか、、、
と、げっそりした気持ちでいると、応援しているI口さんに会えた。
バイクでは、住吉で応援してくれた。


「娘さんは、I田さんらが連れてきてくれて、ゴールで待っているよ」


今朝、娘を宿に置いたまま、自分はレースに来た。同じ宿で日本選手権を終えたI田さんとその家族が連れてきてくれたらしい。ありがたい。娘には、丸一日ゲームしててもいいから、なんて言ってしまった。


「ありがとうございます!!!」


少し元気に登り坂を走れてる自分がいる。体は気持ちにコントロールされるんだな。


時刻は5時半。日没まで45分。


7時までに1周目を終える、脚は止めない。エイドで補給するものは水分だけ、何か食べた方がいいのかもしれないが、受け付けてくれる感じはしない。


途中のエイドでオレンジのタスキをもらう。安全のためのリフレクターなのだ。少し長いので、体にフィットするよう端を結ぶ。ひとりで、駅伝みたいだ。


行きに通った道を折り返し、商店街まで戻る。
次第に沿道の応援が増え、声をかけられる。


「ゴール?」


「いや、もう一周」


「待ってまーす♪」


バイクでリタイアになった仲間も、沿道から応援してくれる。ひとの分まで背負える元気はないけど、いけるところまで楽しみたい。


フィニッシュエリアに向かう選手を左にみながら、自分は右の周回コースに戻る、あそこにたどり着けるだろうか、、、。


ここまで、21km、2時間20分ほどで1周目を終えた。
時刻は6時半。制限時刻は9時半。残り3時間でハーフマラソンだ。


疲れ切ってた。2周回目に入ったら、少し歩きを入れようと考えてた。けど考えを変えた。もう少し、いけるとこまで走ろうと決めて、進む。前を友人同士なのか、2人の選手が話しながら走っているのを追い越す。


角を曲がると、娘が待っていた。一緒に写真を撮ってもらう。娘は少し恥ずかしそうに、でもどこか、うれしそうに写真に写る。


いってきまーす。顔はニコニコしていたけど、疲れてた。でも、一歩一歩いこう。ペースが落ちてくるのがわかる。


日の入り時刻を過ぎ、あたりは暗くなる。自分が暗闇にまぎれると同時に、走り続けるのはやめた。どこか、明るいうちは、かっこつけたくて、走り続けてたのかもしれない。暗くなり、ほっとして、歩きとランを織り交ぜながら進む。ラップタイムは、7分台だ。ずっと走り続けている選手と、抜きつ抜かれしつつも、同じ集団で移動している。


田んぼへの道へでると、一層暗くなってる。灯篭のない部分は足元さえ見えない。他の選手はどうやって走ってるのだろう、今は、前をいく選手の肩をみながら、足元には平らな道があるはずだ、とカンで走ってる。一人になったら、道を外れるかもしれないな。


走りに歩きを織り交ぜてたつもりが、
歩きに走りを織り交ぜた感じになってきている、


いちにさんしごーろくしちはち、と数えながら走って。
いちにさんしごーろくしちはち、と歩いてたのに。


いちにさんしごーろくしちはち、と走って、
いちにさんしごーろくしちはち、きゅうじゅうじゅういち、、、と歩いてる。疲れた。


27kmをすぎ。歩きだした。走る元気がない。
気持ちだけ急ぐが、脚はそうもいかない。
ガーミンがラップを伝える。


9分39秒。


まずいな。

  • -


1周目を終え残り3時間。まわなない頭で考えた。キロ9分なら、10kmを90分で進める。20kmなら180分、つまり3時間だ。21kmなのでプラス1km分は、8分台で進めばいいはず、たぶん。


ところが、1kmを歩いてみると、ラップは10分近い。まずい、貯金を食いつぶしている。どんどん貯金がなくなって、たとえば終盤キロ5分でないと挽回できないことになったら、とてもゴールは無理だ。やばい。


少しでも走らなきゃ、、と2、3歩走ってみるが続かない。
まずいな。


1周回目はがんばってみたけど。まだ自分は未熟だったのかな、珠洲佐渡なんて、練習もしていないのに、そんな日程組んでる自分がバカなんだ。


くそぅ。


あたりは暗く。田んぼはどこまでが田んぼかわからないくらいに見えなくなり、山も消えた。自分はどこにいるのだろう。ここまでか、、。あとは、エイドごとの、関門時間のどこかでタイムアウトになって終わるのだろうな。


自分にくやしくなって、眼の奥のほうで汗が生まれるのがわかった。何かかこぼれ落ちそうになり、誰も見ていないけど、上を向く。




満天の星空だ。




今日1日楽しかったな。泳いだり、サイクリングしたり、そして夜は、心地いい風にあたりながら、散歩してるんだ、ぼくのレースは終わりだ。今の状況を納得させるようなセリフと、くやしさとが交互に出てくる。


ごめんな、せっかくゴールで待っててくれてるのに。パパ少し力不足だったな。


ときおり、暗闇の向こうから、がんばれーと声援が聞こえるけど、左から右にすり抜けていく感じがした。もうすっかり、レースはあきらめてた。

  • -


31km地点、残り11km。後ろからひたひたと追い抜いていく選手がいる。すごいな、こんな時間帯でもまだ走りつづけている選手がいるんだな。


みると、自分より10もしくは20歳ほど年上の選手のようだ。すごいな。自分は、かなり歩いたけど、まだエイドの関門にはひっかかってないな、昨年ランでリタイアになったS井さんから、エイドの関門時間が厳しいと聞いていたが、まだ大丈夫のようだ。


登り坂、少し走ってみる。かなりゆっくりなら走れそう。
ダメ元だけど、行けるとこまで行こう。


後ろから話し声がする。


「このペースなら、いけますよ、キロ9分で大丈夫、、、」


なんども出場しているベテランなのか、この選手を信じてみようかな。彼についていけば、もしかして、制限時間内にゴールできるのかもしれない。


それでも、走り続けるのは難しくて、多少歩きを織り交ぜながら行く。自分のペースが変化しても、幸い、ベテラン選手は、目の届く範囲にいる。たぶん、この人の、自信ありそうなペースなら大丈夫。


エイド。日が落ちて気温も下がってきた。冷たい水分はからだが欲してない。ありがたいことにあたたかいお茶の用意があった。思わず頼む。自分で水をいれぬるさを調整して飲む。


ベテラン選手はエイドでしっかり補給している。先に出るが、歩いているうちに再び追いつかれる。


キロ9分でいいと言っていたけれど、本当だろうか?
あらためて自分で計算しなおす。相変わらず、頭は回っていない。


時刻は、8時半すぎ。制限時間まで1時間を切ってる。
残り6km。キロ9分で54分かかる。


やばいじゃん。
間に合わないかも。


ベテラン選手を置いてペースをあげた。自分で判断して決めたほうが、もし、ゴールできなかったとしても納得ができる。


脚はひどく重い、走り続けるのは難しい、早歩きでごまかす。田んぼの真ん中でこんな遅い時間まで応援し続けてくれる人がいる、また来年来てねーと。ありがとう。ありがとう。


ぼんやりと、足元を灯篭が照らしてくれる。


住宅街に入る。残り何キロだろう。最後のエイドです、って言ってる。残り3km。だったら間に合いそうだ、本当に3kmか?残り3km台って意味なのか、3km台だったら、3.9kmも3km台だからな、、、、


ぐるぐると頭がめぐる。


少し坂を登り、右に折れる。かろうじて機能している自分の記憶によれば、あとは直線で、商店街が見えるはずだ。


暗い中を進む、ペースは上がらないが、一応走ってる。商店街はどこだ、この先だったはず、もう少しのはず。


ようやく、向こう側に明るい光が見えて来た。


すでにゴールした選手が並んでいる。


「おつかれさまでした!」


選手とハイタッチをするとき、今日のこの長いレースに挑んできた仲間としての、共鳴を感じて、よりじんとくる。


帰ってきたんだ。


華やかな商店街を抜け、左に折れる。係に、オレンジのタスキを返す。1週目で眩しく見えたフィニッシュゲートが再び見える。こんどはあのゲートをくぐれるのだ。


最後の直線で、娘と合流する。ずいぶん待たせちゃったな。
手をつないで、フィニッシュゲートに向かう。


右手は、すでにゴールした選手でごった返している。自分の姿をみつけた仲間が、おかえりーと声をかけてくれる。


「帰ってこれないかとおもったよ」


と、本音が溢れる。


長かった、本当に長かった。
娘といっしょに、フィニッシュテープを頭上にあげた。


自分の名前がアナウンスされるのが聞こえる。

    • -


ラン 5時間13分
トータル 15時間22分。

  • -


珠洲Aから佐渡Aへ、自分の長い長いレースが終えた。


      • -


まもなく、大会は制限時間を迎えた。フィニッシュゲートは解放したまま、制限時間を超えた選手もあたたかく迎えている。


早朝に泳いだ佐和田の海にむかって腰をかけると、盛大は花火がうちあがる。ぼんやりと、花火をみながら、今日1日の素敵な旅を思い出してた。今日だけじゃない、珠洲から佐渡に続く、長い長い自分だけのレースを思い出していた。


楽しかったな。

  • -

またエントリーするかって?うーん。
もしやるなら、4週連続とかがいいんじゃないかな。

  • -

終わり。